問題となるのは、日本がこれから迎えるインフルエンザシーズンだ。流行地の西アフリカを出国後、3週間もの期間があれば、インフルエンザにかかって発熱する人はたくさんでるだろう。今後、その人たちをすべてエボラ疑いとして隔離し、検査していくことができるのだろうか。陰性の報道が続けば、騒ぎとなって隔離されることを恐れ、渡航歴を申告せずに黙って医療機関を受診する人も増えるかもしれない。しかし、シーズンになればインフルエンザ患者であふれかえる医療現場において、「自己申告は無いかもしれない」という前提にたち、発熱患者すべてをエボラ疑いとして対応することは不可能だ。インフルエンザシーズン前にアフリカでのエボラ出血熱の流行が収まらないとすれば、どうすればいいのだろうか。
「広い網」のメリット・デメリット
ここからは政府の方針と、エボラ疑い患者のモラルの問題になる。
流行地への渡航歴があり、発熱した日本入国者のうち、エボラ患者との「明確な接触歴」のある医療者や患者の家族などは、今後もエボラ疑い例として確実に拾っていくのはいい。しかし、現在のように接触歴は無いが流行地へ渡航しただけで発熱した患者を、すべてエボラ疑い例として広く拾っていくのがベストなのだろうか。海外でも、先進国からは、患者との明確な接触歴のあった人以外から感染者は報告されていない。咳やくしゃみでうつるインフルエンザなどとは違い、エボラに「気づかぬ間にかかっていた」という症例はない。これからのシーズン、発熱患者の圧倒的多数がインフルエンザやノロであることを考えれば、エボラ疑いは「接触歴+発熱」に限定して網掛けするという手もある。
患者の側はどうか、流行地から入国して発熱した人が、3週間ルールをしっかり理解し、接触歴にしろ渡航歴にしろ、必要な情報を必要な相手全員にきちんと自己申告できるかも課題。疑い例を「渡航歴+発熱」とするのであれ「接触歴+発熱」とするのであれ、本人がそれを申告してくれないことには対応のしようがないからだ。
病院からの感染拡大に配慮した塩崎厚労大臣は、10月28日の会見で、「エボラを疑う人は病院へ行かずに、保健所か検疫所へ報告を」と呼びかけた。しかし、その結果、60代男性は検疫所に報告をする前に、渡航歴を隠したまま病院を受診してしまった。
今のところ、エボラは先進国では流行しづらい。しかし今後、何をきっかけに、どこで新たな流行が始まるのかは、分からない。重症急性呼吸器症候群(SARS)の時はアジアと人の往来が多く、都市化の進んだアメリカでの流行が懸念されたが、結局、国内での感染が拡大したのは隣国のカナダだった。アジアでのエボラの流行も、アフリカと行き来の多い中国で始まるのか日本で始まるのかは分からないし、予測したところで意味がない。
今後も「渡航歴+発熱」で広く網をかけ、医療現場のキャパシティに不安を抱えつつも、可能な限りの早期発見を目指すのか。この場合、現場は疲弊し、陰性報告が続くことで世間のエボラへの恐怖は希釈されるだろうが、陰性に慣れっこになり、早期発見と逆の結果につながる可能性がある。もしくは、「接触歴+発熱」で狭く網をかけ、最低限の守りを着実にすれば患者の早期発見に十分であるのか。しかし、「エボラ感染の機会は、自覚している接触歴だけ」とは言い切れない部分も残る。医療者も世間もこれで安心できるだろうか。
西アフリカや他の先進国での流行状況も見ながら、難しい選択が問われることになる。
(注)マラリアの迅速検査の検出感度はマラリアの種類によって異なる。また、溶連菌迅速検査もマラリア迅速検査も検出感度は100%ではなく、感染していても陰性と出る偽陰性が報告されている。(キットによってその率は異なる)
【変更履歴】
・次亜鉛酸ナトリウムは、正しくは次亜塩素酸ナトリウムでした。お詫びの上、訂正します。(2014/11/8 20:20)