独自の調査と推理によりリーチャーはついに、問題の下院議員が特殊部隊の隊員だったときに、極秘任務でアフガニスタンに潜入し、後に9・11テロを首謀するオサマ・ビンラディンを表敬訪問した事実を突き止める。アフガニスタンを占領していたソビエトを追い出すために、アメリカが密かに現地のイスラム戦士たちを支援していた当時の話だという。歴史の皮肉に関連して、第2次世界大戦の時にかつてはアメリカがソビエトに物資を提供していた過去をひもとくくだりで、本書では次のようなジョークも交える。
The Soviets were said to have asked for condoms, and in an attempt to impress and intimidate, they had specified that they should be eighteen inches long. The United States had duly shipped them, in cartons stamped Size: Medium. (p173)
「ソビエトはコンドームも要求したと言われ、虚勢をはるため、サイズは18インチ(約46センチ)のものにしてくれと細かくして指定してきた。アメリカは注文どおりのものを発送した。段ボール箱の外に『ミディアム・サイズ』とスタンプして」
下院議員のアフガニスタンとの思わぬ関係が明らかになり、リーチャーは地下鉄で出会った女が、アフガニスタンのテロリスト集団に脅迫されていたことを突き止める。本書のラスト近くでは、アフガニスタンからやってきたテロリスト集団15人が立てこもるマンハッタンの廃屋同然のビルの中に単身で潜入し、テロリストたちをやっつける活躍を果たす。このあたりは娯楽作品ならではのストーリー展開で無理があるものの、読者が求めるヒーローのお約束の活躍ぶりだ。
本書の物語はほとんどがマンハッタンを舞台に進む。なかでも、地下鉄の駅や電車がアクションシーンの道具として重要な役割を果たす。Subway surfing(地下鉄サーフィン)と呼ばれる危険な遊びも登場する。地下鉄の車両の外側にしがみついて、地下鉄を乗り回すというものだ。にわかに信じがたいが、実際に地下鉄サーフィンをする若者がいるらしい。ちなみに、敵から逃げる際、リーチャーも地下鉄サーフィンをする。
唯一登場する日本企業は?
最後に、日本の会社が本書に一箇所だけ登場するのを紹介したい。
Therefore I knew that car number 7622 was an R142A model, the newest on the New York system, built by Kawasaki in Kobe, Japan, (後略、p2)
「それで俺は、その地下鉄車両7622号がR142Aモデルであることを知っていた。ニューヨーク地下鉄で最も新しい車両で、日本の神戸で川崎(重工業)が製造したものだ」
アメリカのベストセラー小説は海外でも翻訳され、最終的には世界で何百万人という人が読むことになる。そうした本の中で、日本の会社のことが少しでも触れられていると、うれしくなる。
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