キツネを根絶したと勝ち鬨をあげたのもつかの間、今度はネズミが海鳥を壊滅的なまでに減らしているとして、ネズミの根絶作戦が繰り広げられる。抗血液凝固剤を混ぜた毒餌を空中散布して、ネズミを一匹残らず、ゆっくりと失血死させるのである。
著者は高らかに語る。「ニュージーランドの固有種を守ろうとする人々は、不運と絶望の時期を脱し、整然たる殺戮という容赦ない方法によって生態系保全の先駆者となった」。
「整然たる殺戮」による生態系保全……ぞっとする言い回しだ。いたるところに毒を投下して、生態系に悪影響はないのだろうか?
私が感じたのと同じ疑問を抱き、反対する人がいないわけではなかった。
自然を強引に管理しようとした「しっぺ返し」
カリフォルニア沖の島で、ウミスズメをネズミから救うために毒餌を散布する計画には、毒を食べたネズミを捕食するワシなどが犠牲になる懸念があった。散布に抗議する反対者はいう。
「ある動物の種を『侵入者』と呼ぶ人間は、いったい何様のつもりだ? こっけいだよ」。「種は常に絶滅していく。これは哲学の相違だ。これらの動物はここにいて、生きている。その生命には価値があるのだ」。
また、ネズミを殺す兵器の人道性・非人道性を調査した生理学者はいう。
「げっ歯類は、常に残酷な扱いを受けてきたといえる」。「このことは、動物の種類によって扱い方が変わるという、人間の矛盾する性質をはっきり示している」。
しかし、こうした声も、勇ましい進軍ラッパにかき消された。過去40年間に、駆除は「格段の飛躍」を遂げていた。
<今ではヘリコプターがGPSを頼りに、何十トンもの毒薬をメートル単位の正確さで投下するようになった。それと並んで、ホルモンを投与したブタやヤギのマタ・ハリに仲間を誘惑させ、処刑場へ引きずりだしている。小国ほどの大きさの島、そして大洋に横たわる群島の生態系が、戦略的な攻撃と救助によってかつての状態に戻されつつあった。>
「かつての状態」に戻す聖戦の成果が華々しく書きたてられるほど、心には暗雲が広がった。自然を強引に管理しようとすれば、しっぺ返しを食らうのでは。そう恐れつつ、読み進んだ。