本書は今年3月に日本語の初版が出て、以来7月までに3版を重ねている。編集者の話ではうなぎ上りに評価が高まっているという。
私も書店で早々に目にしてはいたが、『寄生虫なき病』という日本語タイトルと、カバーのおどろおどろしいアメリカ鉤虫の拡大写真に恐れをなして、手を出せずにいた。
「著者は、寄生虫『アメリカ鉤虫』に自ら感染した――」。センセーショナルな宣伝文句にも、「またか」と眉に唾をつけたくなる既視感を抱いた。
ところが、である。胃をむかむかさせる鉤虫の姿が目に入らないよう、とくに電車内では他人の目にふれないよう、注意深くブックカバーをかけて読み始めた。とたんに「裏切られた」と感じた。
日本語タイトルに裏切られた、のである。原題は、AN EPIDEMIC OF ABSENCE。「不在の流行」である。現代社会に静かに広がりつつある「不在」、それは、アメリカ鉤虫のような寄生虫だけでなく、細菌やウイルスなど、進化の過程でヒトと互いに依存しあい、絶妙のバランスを保ってきたさまざまな「寄生生物」、言葉をかえれば「旧友」たちの不在を指す。
「旧友」が都市の環境から、私たちの体内から、急激にいなくなったことが、アレルギー疾患や自己免疫疾患、さらにはメタボリック症候群、心臓病、ある種のがん、発達障害、うつといった現代病の増加を引き起こしている。
そんな驚くべき可能性を、科学ジャーナリストである著者は数多くの論文や科学者、患者とのインタビュー、そして自らの「寄生虫感染」の体験から徐々に明らかにしていく。
人類と「旧友」たちの真の姿
謎解きの過程はスリリング、かつ、ジグソーパズルのピースを埋めるような快感に満ちている。
著者はまず、長年の自己免疫疾患を治療するためにメキシコへ向かう。怪しげな寄生虫業者の手で、著者は寄生虫と「一心同体」になる。