オトナの教養 週末の一冊

2014年11月28日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 一方で、人類が「不潔なサル」だった時代へとさかのぼり、寄生生物が我々の「旧友」として免疫の進化の原動力となってきた歴史を突き止める。

 自己免疫疾患の発症率が極めて高いイタリアのサルデーニャ島では、それがマラリア原虫の撲滅と同時期に始まった。アフリカではこれまで存在しなかった喘息が現れ始めた。その理由は何か。著者は世界各地を歩き、丹念に断片的証拠を拾い集める。8500本もの論文を渉猟し、学会では噂話ひとつ聞き漏らさない。

 すると、それまでばらばらに宙に浮き、一見関係ないと思われていた情報が、ヒトという生態系をかたちづくる「超個体」という観点から新たに紡ぎ出されていく。ピースの隙間がひとつ、またひとつと埋まり、それまで見えていなかった人類と旧友たちの真の姿が浮かび上がってくる。

「敵」の根絶が「内なる生態系」の崩壊を招いた

 産業革命後のわずかな期間に、我々は「敵」を見つけ出し、根絶することに集中してきた。それこそが医学の成果であり、人類の勝利だった。

 しかし実は、その行為こそが「内なる生態系」の崩壊を招き、新たな難病を生み出していたのである。

 近年見つかった「悪玉」ピロリ菌ですら、実は免疫細胞を制御して喘息やアレルギーを予防している可能性があるという。抗生物質で根こそぎにしてしまえ、というのは短絡的だったと気づかされた。

 <おそらく最も重要なことは、免疫系にとって、「平和維持」とは「何もしていないこと」ではなく、「積極的な行為」だということである。均衡状態は必ずしもデフォルト設定ではなく、高度に発達した才能なのである。>

 <このように考えれば、アレルギー疾患とは、「本物の寄生虫や主要な微生物がいなくなってしまったために、寄生生物制御メカニズムが制御不能に陥った状態」と見なすことができる。自己免疫疾患は、「制御機能が弱いために、組織防衛・組織保全プロセスが自己破壊に向かってしまった状態」と見なすことができる。こうした問題の解決法―免疫系の本来の働き方―を教えてくれるのが、かつて不倶戴天の敵と考えられていた細菌や寄生虫である。>

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