これが部屋数というキャパシティ(収容力)の壁に阻まれて達成が難しいことは連載4ですでに説明した。キャパシティの限界にひとつ解決策があるとすれば、建設の段階から計画的に「部屋数を増やしてしまう」ことだ。
最近、ひとつの部屋が非常に狭いかわりに低価格のビジネスホテルが増えている。1泊数千円程度で泊まれ、朝食の無料サービスまでついている。機能重視に徹して低価格を追求する路線だ。全国どこの都市でも駅前などの比較的立地の良い場所にこうした低価格ホテルが増えている。
これまでの従来型ホテルはどことなく高級感が漂い、部屋もゆったりと広いかわりに料金が高かった。こうした従来型に比して一気に値下げ=低価格路線を追求したのが低価格ビジネスホテルだ、あまりデートで待ち合わせするには向かないが、疲れたオジさんたちが寝るだけなら十分に用は足りる。こうした低価格ホテルでは部屋数を増やし、稼働率を高めることによって「販売数量増加」を目指しているわけだ。
京王プラザホテルと京王プレッソインの
兄弟助け合い関係
新宿に京王プラザホテルという有名なホテルがある。私も若い頃からよくバーを利用しているが、落ち着いた雰囲気が心地よいホテルだ。この京王プラザホテルは京王電鉄の子会社だが、京王電鉄はこのほかに京王プレッソインという宿泊特化型のビジネスホテルの展開をはじめた。現在、東銀座、神田、茅場町、五反田などに展開しており、都心にもかかわらず宿泊料金は8千円程度で朝食も無料。利用者の評判も上々のようだ。
京王プラザホテルというブランド力をもった高級ホテルはそのままに、別ブランドで低価格路線をスタートしたプレッソイン。もちろん同じ京王電鉄グループのホテルなのでノウハウや人材の共有などは行われているだろう。京王プラザホテルで培われたノウハウとホテルマンのサービスがプレッソインに活かされた上で低価格なら人気だというのも頷ける。
実は「かつての有名ブランド」ホテルはどこも経営が厳しくなっている。帝国ホテルしかり、第一ホテルしかり。京王プラザホテルの場合、これを低価格の別ブランド展開によって打破しようとしたのだろう。
これとは反対に、思い切り高価格のほうに舵取りを切ったのが外資系の高級ホテルだ。部屋を広く高級感溢れる仕様にして単価を一気に上げてきたのが冒頭に挙げたマンダリンでありペニンシュラだ。オープン当時は金持ちそうな外国人ビジネスマンで賑わっていた。好景気が続けば羽振りのいいビジネスマンで儲かっただろうが、各種報道によれば、最近は若干調子が悪い様子。こんなところにもリーマンショックの影響は出ているようだ。外資系ホテルは突然のサブプライム不況に頭を抱えていることだろう。
人の弱点は自分のビジネスチャンス
高価格かあるいは低価格か? 景気の動向によってもその成功・失敗は左右されるが、どんな時代であれホテルにとってもっとも恐いのは「空室」だ。これはビジネスホテルでも高級ホテルでも変わらない。固定費ばかりで変動費の少ないホテルという商売にとって、部屋が空いたままで夜を越す事態はとても痛い。
そんな空き室を埋めるところにビジネスチャンスを見いだしたのが一休ドットコムだ。