2024年11月22日(金)

ヒットメーカーの舞台裏

2009年8月3日

稀な仕事に取り組むチャンス

 ユーザー調査は、若い女性、シニア、一眼レフユーザーなどいくつかにグルーピングしながら丹念に聴き取りを重ねる方式で進めた。西崎には「マイクロフォーサーズ」という、新しいマウントによる1号機の商品化に参画すること自体が「ドキドキする」ことだった。レンズとボディーをつなぐマウントは、一眼カメラのDNAのようなもので、一度採用すると容易に変更できるものではない。「新マウントのカメラ開発に携われるチャンスは、極めて稀なこと」と、西崎にはその「価値」が分かるだけに、十分な発奮材料となった。

 聴き取り調査から導き出した開発の方向は、突き詰めると「軽く・小さく」と「楽しく・使いやすい」の2点だった。女性ユーザーを獲得するため、一眼でも軽量化は進んでいるものの「まだ重い」という指摘が多かった。一方で、女性とともにターゲットとするシニア世代も、重さや複雑な操作への不満が顕著だった。ひとつの課題である「軽く・小さく」は新規格の採用をテコに、設計陣がサイズや重量を削ぎ落としていった。西崎の持ち場は「楽しく・使いやすい」を機能としてどう具現化するかだった。

 これについては、ユーザー調査から重要なヒントを得ていた。女性ユーザーの多くが、何でもない日常のひとコマを写真に収めることに楽しみを見出しているということだった。例えば洗濯物を干した風景や、ペットの昼寝といった具合だ。

 西崎はこうした人たちを「感性で“コト”を表現するグループ」と呼ぶ。それは、失敗しても何度も撮り直しできるデジカメ時代が生み出したと西崎は見る。かつて写真は、子供の成長や家族のイベントなどを「記念に撮る」ためのものだったが、デジカメが明らかに写真の楽しみ方を変えているというのだ。こうした西崎の視点は「G1」の売りのひとつである「マイカラーモード」という撮り方で結実させた。撮影対象の色やコントラストなどを好みによって変化させることができるものだ。これはマイクロフォーサーズならではの「ライブビュー」という機能によって実現した。

 ライブビューは、カメラ本体のファインダーまたは液晶モニターに、実際に撮影される画像をリアルタイムで表示するもの。構図だけでなく、焦点合わせ、シャッター速度といったほとんどのセッティングがファインダーまたは液晶を覗きながらできる。「マイカラーモード」など「楽しく・使いやすい」を実現する原動力となった。

 大学卒業時に就職氷河期をくぐり抜けてきた西崎。「私たちの世代はロスジェネとも呼ばれるが、したたかさも身につけてきた」と笑う。「マイカラーモード」の導入については開発陣から疑問の声も少なくなかったが、「ユーザーが感性領域で求めるもの」という西崎の“したたかな”アピールが通った。もっとも、企画者としてはまだまだとの思いはある。今回の開発を通じ「もっと客観性のある説明能力や深い洞察力が必要」と、これからの課題もしっかり見つけている。(敬称略)


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