中国の「暴力テロ分子」対策とは?
中国はISILに対してどのような態度をとっているのか。中国現代国際関係研究院の安全・軍備コントロール研究所の李偉所長は、中国籍の過激派が渡航して、「ジハード」に参加しようとするのは最終的には帰国して国内での活動に役立てたいからだ、と危機感を示している。そのため中国当局としては渡航者の身元を明らかにして東南アジア各国との協力関係を進めている。新疆から東南アジアへ渡り、最終的にISILに参加しようという者がいる一方で、中国当局が懸念するのはそうした若者が帰国して新疆で「独立運動」に関たり、テロを行うことだ。
中国の治安当局は各地の警察力を総動員して「分裂主義者」への取り締まりを更に強める構えである。チベットの公安庁はテロや暴力にかかわる情報提供に対して30万元(500万円超)の報奨金を出すことを通達しており、これには「暴力テロ分子」の「越境」に関する情報も含まれているという。
中国のネットにはISILに対して派兵して打ち負かすべきだという勇ましい意見が多く出ている一方、「愚かな考え」といさめるような意見も少なくない。昨年の9月に中国国防部の耿雁生報道官は、解放軍が出兵してISILを叩くことはありえるか、という質問に対して「中国の軍隊はテロリズムを撲滅する責任を負っており、関係国と関連作業は進めている」と明言は避けたが、テロ撲滅の姿勢は示している。
中国が「出兵」しないのはなぜ?
中国国内でISILへの反発は強く、軍派遣への世論が高まっているにもかかわらず、なぜ中国政府は抑制的スタンスを貫いているのだろうか。軍を初めとする政府のスタンスは耿報道官のコメントを超えるものではないが、ネットで指摘されるISILへの出撃をいさめる理由は中国の本音を表している。
それは(1)現時点でまだ中国本土に脅威が達するには距離があること(2)ISILの北アフリカ、中東、中央アフリカへの拡張計画は警戒が必要だが中世の遊牧民とは異なり、たやすく拡張できない(3)ISIL周辺にはクルド、イラン、シリア等、彼らに対抗する勢力や国があること(4)米国がメインで対処しているから中国が表立って出る必要はない(5)中国は「3つの勢力(三股勢力:宗教的強硬主義者、民族分裂主義者、テロリスト)」の取り締まりを行っているが、イスラム教徒一般とは共存共栄を図っており、出兵で当該地域のイスラム教徒に反感を持たれたくない(6)ISIL拡張で打倒された国はまだなく、中国とISILとの間にある国の体制が崩壊して初めて中国に危機が迫る、という理由だ。特に(5)が重要ではなかろうか。
中国が国内に抱える少数民族による「分離独立」への動きの問題から、過激派によるテロ取り締まりの問題は複雑な様相を呈していることが窺えよう。これまで地域に限定されていた暴力事件が、過激派の移動で中国全土に大きな治安上の懸念を生じさせている事は興味深い。更に考えてみれば、そのように出国した過激派が再入国して再び国内への治安を脅かすという次のステージへの移行はあるのか、あるとすればいつかという点も気になるところである。テロの脅威は対岸の火事ではないのだ。
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