シカゴ大学のChicago Project on Security and Terrorism(CPOST)所長のRobert A. Pape 他が2015年1月2日号の米フォーリン・アフェアーズ誌において、「イスラム国」(IS)への最も効果的かつ現実的な対応は、空爆と地上におけるスンニ派勢力の協働によるISの弱体化にある、と論じています。
すなわち、現在の米国の限定的空爆に依存した政策に対する主要な反対論として、一つには、地上軍の派遣によってクルド、シーア、スンニの3者が共に戦いISの勢力を駆逐すべしというものがあり、他方もう一つとして、ISの司令部及び経済的、軍事的重要拠点まで空爆を拡大してISを弱体化させれば、ISに対するスンニの広範な反乱が起き、地上軍の派遣は不必要になるというものがある。これら2つのオプションは、いずれも決定的な弱点を持っている。
現在の空爆作戦は、ISによるクルド地域やシーア地域への進出を止めることには成功したが、ISによるスンニ地域での支配確立を阻止することには失敗した。我々は空爆と現地地上勢力との協同による作戦を提案しているが、地上勢力としてクルド軍及びシーアを中心としたイラク政府軍を頼りにする方針は失敗する可能性が高い。ISが支配するスンニ地域においてはクルド軍やシーア中心の政府軍が多くの犠牲を払ってまで地域奪還のために戦うとは考えられず、またスンニの人々もシーア派政府が再び自分たちへの支配を強化することを望んではいないからである。
ISを打倒するためには、スンニ地域を奪還する新たな戦略が必要である。この作戦を実施する地域は、先ずイラクの2つのカギとなる地域、モースルが所在するニナワ県及びアンバール県であろう。この戦略には、4つの目的がある。第1番には、これまでの空爆によってISのこれ以上の進撃を喰い止めたという成果を確保すること。2番目にはスンニ派の自治を拡大するというイラク政府とスンニ派部族との合意を促すこと。第3には空爆によりシリアとイラクの間のIS戦闘員の自由な移動を阻止すること。第4には重要なスンニ地域においてISを弱体化することである。
この戦略の成功にとって最後に重要なのは、先ずイラクにおける行動に集中すべきであり、シリアでは今以上の介入は避けるべきであるという点である、と指摘しています。
出典:Robert A. Pape, Keven Ruby and Vincent Bauer ‘Hammer and Anvil; How to Defeat ISIS’ (Foreign Affairs, January 2, 2015)
http://www.foreignaffairs.com/articles/142742/robert-a-pape-keven-ruby-and-vincent-bauer/hammer-and-anvil
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対IS戦略の最も重要なポイントは、スンニ派部族や住民の支持を獲得して、空爆との協働により先ずスンニ地域におけるISの勢力を駆逐することにあるという本論説の趣旨は、現時点では最も現実的なアプローチだと思われます。また、当面はシリア内戦への介入は拡大せず、成功の可能性のあるイラクのスンニ派地域に精力を集中すべきであるとの考え方も、その通だと思います。