徹底して「生」を貫いているのが『葉隠』です。その序文にあたる「夜陰の閑談」にこういう文章があります。
「七生(しちしょう)までも鍋島侍に生まれ出で、国を治め申すべき覚悟、肝に染み罷(まか)りあるまでに候」
七生報国はここから出た言葉です。「七度生まれ変わっても、お国のために尽くす」という意味です。ここからも「死」が単純なる死でないことがわかります。つまり生を強調するためのレトリックであるのです。「覚悟」というのは思想のことです。生の思想は死の覚悟と並行してきます。なぜなら「いかに生きるか」という問いは、「いかに死すべきか」という覚悟と同時進行するからです。紙の表裏のように切っても切り離せない関係にあります。『葉隠』では死のほうから生を探求したのです。
死神は空気のように目には見えませんが、つねに空中を浮揚しています。隙間を見つけては忍び込んできます。それを追い払う力は覚悟である思想以外にはないと思います。最後の一歩で踏み留まるには、それなりの力が必要です。私はそのとき、『葉隠』を強く薦めます。各所に生きる力と勇気がわいてくる文があるはずです。きっかけは小さくとも、成果は大きいはずです。300年の風雪に耐えた古典には、そういう力があるのです。
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