そうした環境は、冷戦終結を機に一変する。韓国は90年に旧ソ連、92年には中国との国交樹立に踏み切った。韓国では、朝鮮半島を取り巻く日米中露を「4強」と呼ぶ。冷戦が終わったことで、韓国はやっと4強すべてと国交を結ぶことができたのだ。逆に言うと、それまでの40年余りに渡り、韓国外交にとっての「すべて」とも言えた日米両国の比重は相対的に下がることとなった。
90年代に入ると、韓国経済もいよいよ先進国水準に近づいてきた。韓国は96年、「先進国クラブ」とも言われた経済協力開発機構(OECD)への加盟を果たす。97年末に通貨危機を経験するが、大胆な構造改革を受け入れることで経済のV字回復に成功。2002年には、日本と共催したサッカー・ワールドカップ(W杯)で韓国代表が4強入りする奇跡的な成績を上げたことなどもあって、韓国はどんどん自信を深めていった。
こうした社会状況の変化を背景に、韓国では1990年代以降、在韓米軍兵士による凶悪犯罪に社会的非難が集まるようになった。2002年には、在韓米軍の装甲車が女子中学生2人をはねて死亡させた事故で、運転していた米兵らが軍事法廷で無罪になったことを契機に反米感情が爆発し、ソウルなど各地で数十万人がロウソクを手に集まる抗議集会が開かれた。同年末の大統領選と時期が重なったこともあり、「反米的」と見られていた盧武鉉氏が当選する強い追い風となった。
盧氏は選挙期間中、反米集会を直接支援するようなことは避けていた。ただ、盧氏はもともと「米国と水平(対等)な関係を作る」と主張していた。その盧氏を当選させた時代の空気は、1980年代の反米にあった「米国に対するあこがれ」とは異質のものだったと言えるだろう。
中国の台頭で揺らぐ、韓国の米国観
韓国人の米国観は2010年を前後した時期から、再び変わり始めたように思われる。契機は、中国の台頭である。
韓国の民間シンクタンクである峨山政策研究院が2014年3月に行った世論調査を見てみよう。この調査では、政治と経済それぞれについて「いま最も影響力のある国」と「今後、最も影響力を持つ国」を聞いている。
「いま最も影響力のある国」では、米国が政治で81.8%、経済で64.7%。中国がそれぞれ、5.2%と25.2%だった。これが「今後」になると、政治は、米国が44.8%、中国が39.3%となり、統計的には誤差の範囲内。経済は、中国が66.7%、米国が22%と完全に逆転した。調査報告書は「多くの韓国人が今もなお米国に高い支持と信頼を寄せているが、中国がこれから進む方向によって韓国人の心が中国の側に傾く余地もなくはないように見える」と評価した。
米国のオバマ大統領は同年4月に訪韓した際、韓国紙・中央日報との書面インタビューで、「地理的条件と歴史を考慮すれば、韓国と中国が経済協力を増やしていくことは、おかしなことではない」という考えを示した上で、「ただし、韓国の安全保障と繁栄を守ることができる基盤は米国だ」とくぎを刺したうえ、「米国は世界で唯一の超大国だ」と強調した。
中国の台頭を受けて、米中両国をてんびんにかけるかのような議論が出始めた韓国への強い警告だった。同紙のワシントン総局長は、「オバマの直接的警告」と題したコラムで、中国に接近しすぎる韓国への不満が米国に強まっていることが背景にあると指摘した。