Wedge REPORT

2015年5月26日

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 ワトソンは先に起こった世界動物園水族館協会(WAZA)と日本動物園水族館協会(JAZA)の問題でもかみつくことを忘れなかった。

 JAZA加盟の動物園や水族館は5月21日、WAZAの勧告を受け入れ、和歌山県太地町の追い込み漁で捕獲したイルカを今後、いっさい入手しないことを決めた。反響は大きく、このニュースは世界中で報じられた。

 さかのぼると、ワトソンは2003年に当時の妻(離婚)と右腕のオランダ人幹部を太地町に送り込み、イルカ漁に妨害を加えた。それがシー・シェパードと太地町の関わりの初めだ。それよりも前から国内外の保護団体が反イルカ漁運動を続けていたのにもかかわらず、ワトソンは「太地の問題が国際的なメディアの注目を浴びたのは、シー・シェパードが国際社会に訴えたからだ」とうそぶき、日本の水族館イルカ問題を解決した最大の功労者はシー・シェパードだと高らかに宣言した。

他人の手柄を我がことのように喧伝する 
シー・シェパードの常套手段

 他者の成果は自らの団体の成果のように売り込む。シー・シェパード成長の奥義だ。だからこそ、結成40年、他団体との手柄争いにも負けず、成長を続けてきた。実際、水族館イルカ問題が大きく動いた背後にはシー・シェパードとは関係のない「Australia for Dolphins」(AFD)というオーストラリアのイルカ保護団体が関わっていた。

 日本のイルカ漁撲滅を団体の活動理念に掲げるAFD代表、サラ・ルーカスは昨年、日本を訪れ、太地町を相手どって損害賠償訴訟を起こしていた。ルーカスが町営のくじら博物館の入場を断られたのは「人権侵害」にあたるとして町に慰謝料を払うよう求めたのだ。

 豊富な資金力があるAFDの活動は多岐にわたる。「オーストラリアの恥」と称して太地町と姉妹都市を結ぶ豪北西部の都市にさえ圧力をかける団体は、今年3月、WAZAのある本部スイスでもWAZAを相手に訴訟を起こしている。太地産のイルカを購入し続ける日本の水族館はWAZAの倫理規定に背いており、WAZAがJAZAを除名しないのはおかしいというのである。

 WAZAがJAZAに最後通告を突きつけてきたのはAFDの提訴の1カ月後だった。それまで日本側との交渉に応じていたWAZAの態度が急変し、JAZAへ強硬な手段に出るようになったのはこの提訴が関連していると、多くの日本側の関係者が指摘している。

 サラ・ルーカスはJAZAの決定後、英紙ガーディアンの取材に応じ、水族館が太地産イルカ入手をやめたことは大きな成果だと強調した。さらに、「(漁の)終わりの始まりだ」と答え、太地町の「イルカ狩り」を完全停止に持ち込むまで活動を強化していくことも強調した。

 WAZAは50カ国以上の動物園、水族館が加盟する民間団体に過ぎない。しかも中国や韓国、ロシアなど加盟していない国家も多い。国際的NGOや国際組織のように人員も予算も少なく、すべての問題に対応できる力は持っていない。

 野生のイルカの入手を制限すれば、次はキリンやゾウなど他の動物の獲得や飼育、園展示にも影響してくる。主要国の動物園、水族館を束ねるWAZAは今回の決断で、自分の首を自分で絞めたのだ−−。動物園や水族館の運営に詳しいある関係者はこう漏らした。

 「WAZAもJAZAと同様に被害者なのだ」

 関係者の言葉は、世界の動物園、水族館がここ数年、どのような状況に置かれてきたかということと深く関わっている。

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