2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2015年5月26日

 「動物を搾取してはいけない」「動物にも生きる権利がある」と主張する動物愛護団体は、動物園や水族館に様々な形で圧力をかけている。イルカに限って言えば、すでにオーストラリアやニュージーランドでは飼育している水族館はない。米国でもイルカショーどころか、イルカを展示している水族館自体が減ってきている。

動物愛護の名の下に潰されていく 
動物園、水族館

 完全菜食主義者(ビーガン)のポール・マッカトニーや、ナタリー・ポートマンら有名人を広告塔に持つ米国最大の動物愛護団体PeTAの主張は象徴的だ。「動物を入れる檻や窮屈な囲いは、基本的欲求を享受するための機会を動物たちから奪っている」

 PeTAは動物園や水族館の存在自体を否定している。動物への優しい待遇を推進する「動物福祉」論や、動物に対する人間の恣意的な搾取や抑圧は「種差別」に当たるという指摘、そして、緑の地球を維持するのは、人類の利益のためではなく、この世の全ての生命存在のためだとする「生物中心主義」(人間中心主義と対比される)はイルカや鯨だけでなく、全ての動物の生きる権利を守ろうとする活動家たちの行動基盤となっている。

 こうした論理は、この地球にとって「人間こそが排除すべき敵なのだ」とする過激思想にまでエスカレートさせる。そうして、原理主義者たちを生み、彼らが行動を起こす「正義」へと昇華する。

 太地産イルカを断ち切ったJAZAの決定は世界の動物愛護団体から歓迎されている。この歓喜の裏で、一部の活動家たちは仲間や資金を募り、動物園や水族館を地球上から廃止しようと目論んでいる。

 日本の水族館でもそうした波を受けて、「水族館の水槽を空っぽにしよう」という運動がすでに始まっている。

 新妻と一緒に歩いたカンヌ映画祭のレッドカーペットはワトソンの人生にとってよほど意義高いことだったに違いない。彼の言葉にその気持ちが表れている。

 「ヤーナ(妻の名前)と私は2人でディナーやパーティーに参加する機会を得た。私たちは海洋保護や気候変動問題など実に多くの人たちと会話を交わすことができたんだ」

 興奮冷めやらぬワトソンはその勢いで支持者たちにメッセージを送った。イルカ漁は「カニバリズム(人食い主義)」と一緒で、「21世紀の時代に、動物に危害を加え、死に至らしめる残虐な文化が存続してはならない」のだという。

 「シー・シェパードの目的は、イルカのいる全ての水族館を閉鎖することだ」

 もしかしたら、今回の日本の水族館イルカ問題は将来起こりうる「水族館テロ」につながる大きな節目となった出来事だったのかもしれない。

 命あるものの尊さを伝えてきた動物園や水族館の存在意義がいま、大きく問われている。

  
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