2024年4月19日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年9月9日

 しかし、ウォール街でライバル各社に遅れをとることは、経営者にとっては非常に耐え難いことだ。ライバルの後追いをせずに、ダイモンが健全な経営を続けられたのはなぜか。ダイモンの次のコメントは示唆に富む。

 “One of the problems of being a CEO is the constant pressure on you to grow, grow, and grow. It is there the whole time,” Dimon recalled. “But if you are in the risk business, you can get into terrible trouble if you just keep growing. As Warren Buffett said, sometimes the best thing you can do is just go to the golf course and do absolutely nothing for a bit.” (p141)

 「CEOでいることの最大の問題のひとつは、成長、成長、そして成長と、業績を伸ばすよう常にプレッシャーを受けることだ。つねにプレッシャーがある」ダイモンは振り返る。「しかし、リスクの高い業界で業績を伸ばし続けると、大変な経営難に陥ってしまう。(アメリカの著名投資家)ウォーレン・バフェットが言ったように、ただゴルフ場に行ってしばらく何もしないことが、時に最良の策となりうる」

 当然ながら、ダイモンを第一級の経営者として描く本書では、他の金融機関の経営トップには厳しい評価を下す。例えば、次のような具合だ。

 But Citigroup, Merrill Lynch, UBS, and numerous others were run by former bond and equity salesmen, lawyers, wealth managers, and commercial bankers. Such men had little instinctive interest in the technical details of managing risk. Moreover, the wider competitive climate provided an overwhelming incentive for them to focus on revenues above all else. (p133)

 「しかし、シティグループやメリルリンチ、UBS、その他の多くの金融機関は、債券や株式の営業、弁護士、富裕層向け運用サービス、貸し出し業務の出身者が経営していた。こうした経営者はそもそもリスク管理の技術的な詳細について関心を持っていなかった。それ以上に、競争の激化を背景に、何にもまして売り上げを伸ばすことが経営者の至上命題になってしまっていた」

日本のバブルを彷彿とさせる "shadow banking"

 リスク管理を理解しないトップが経営する欧米の大手金融機関は、ペーパーカンパニーをつくって新手の金融商品のリスクを帳簿外に飛ばしていた。監督当局も金融機関が抱えるそうした簿外のリスクを見落としていた。金融機関のバランスシートには反映されない資金やリスクが膨張し、やがてshadow banking (影の銀行)と呼ばれる。銀行は通常、個人から預金を集めて資金調達するのが、影の銀行システムでは、コマーシャル・ペーパー(CP)という、機関投資家が1年未満の短期の資金を貸し借りする市場で資金を集めて、自転車操業を続けていた。それが、リーマン破綻のショックで、機関投資家が一斉にコマーシャル・ペーパー市場から手を引いたことで、影の銀行は資金繰りに行き詰まり、金融機関は簿外に飛ばしていたはずのリスクを本体で引き受けざるをえなくなり、巨額の損失に見舞われた。

 本書はこうした一連のからくりとその破綻を、関係者の証言と、マスコミが通常はほとんど報道しないコマーシャル・ペーパーという地味な金融市場の動きを追うことで、明らかにしていく。関係者の次の一言は特に、今回の危機の本質を見事に言い当てている。


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