■今回の一冊■
FOOL’S GOLD 筆者Gillian Tett, 出版社Free Press, $26.00
表紙とその筆者(画像拡大)
米BusinessWeek
単行本ビジネス書部門
3カ月連続トップ10
今回の世界的な金融危機の本質を的確に描き出したノンフィクションだ。破綻した金融機関のスキャンダラスな内幕を暴露するわけでもなく、政府高官や金融当局の幹部たちの英雄的な活躍を追ったわけでもない。内容は派手さに欠ける。
しかし、英フィナンシャル・タイムスの金融マーケット担当の記者である筆者ジリアン・テットは、マーケットの動きに地道に寄り添い、世界の金融市場で本当のところ何が起きていたのかを丁寧に描き出す。世界を奈落の底に落としかねなかった金融危機がなぜ起きたのかという核心をつくノンフィクションとしては、本書を超える作品は今後もう出てこないだろう。そう思わせるほどの名著だ。しかも、専門用語の使用を最小限におさえ、とても読みやすい。
昨年9月にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻して以降、日米欧の中央銀行が超緩和的な金融政策をとったり、政府が金融機関を支援したりと、金融システムの崩壊を阻止するための当局の派手な取り組みを、各国メディアは大々的に報じてきた。
日本のメディアも、アメリカの中央銀行であるFRBのバーナンキ議長の危機対応の手腕を高く評価する報道が目立つ。しかし、本書はそもそも、FRBをはじめ金融業界を監督する当局が、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)といったデリバティブ取引の危険性を理解せずに規制を怠り、金融機関の経営と金融市場が変貌(へんぼう)し、従来型の金融行政が無意味になっていたと指摘する。
デジャブを感じた日銀マン
そして、本書が唯一、欧米の金融システムが抱えているリスクの大きさにいち早く気づいた当局者として取り上げるのが、日本銀行の中曽宏・理事だ。
2007年夏に、ドイツの中堅銀行であるIKB産業銀行が、サブプライムローンに絡んだ投資で損失を出し資金繰りに行き詰まった時に、中曽はただならぬ事態が起きつつあることを早くも感付いたという。中曽は金融システムを監視する信用機構局(現金融機構局)で日本の金融危機に遭遇しただけに鼻がきいた。次ぎに引用する一節は、危機がぼっ発する前の欧米当局のごう慢さとともに、中曽の深い洞察力を示すエピソードだ。