2024年4月24日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年9月9日

 Half a world away in Tokyo, watching the IKB drama unfold, Hiroshi Nakaso, a senior official at the Bank of Japan was struck by déjà-vu.(中略)” I see striking similarities today with the early stages of our own financial crisis more than a decade ago,” he told some of his international contacts on August 2, 2007. “Probably we will have to be prepared for more events to come…the crisis management skills of central banks and financial authorities will be truly tested [in the months ahead].”
  Nakaso’s reaction was shared by other Japanese onlookers. When Nakaso’s counterparts in America or Europe heard such comments, though, most discounted them. They considered it fanciful, if not alarmist, to draw parallels between Japan’s woes and the troubles brewing in Western finance. By 2007, American and European financiers took it for granted that their financial system was vastly more sophisticated and efficient than that in Japan. (p180-181)

 「地球の裏側の東京では、(ドイツの)IKBを巡るドタバタをみて、日銀の幹部の中曽宏はデジャブ(既視感)に見舞われた。(中略)『10年以上も前のわれわれの金融危機の初期段階と驚くほど似ている』中曽は2007年8月2日に、海外の関係者に話した。『おそらく、これから起きる事態に備えなければならないだろう・・・中央銀行と金融当局の危機管理能力が(今後、数カ月以内に)本当に試されることになるだろう』
  日本の他の関係者は中曽の見方に同調した。しかし、アメリカやヨーロッパで中曽と同等の要職にある人のほとんどは、そうしたコメントを軽くみた。戯言とまでは言わないものの、日本のかつての災難と西洋の金融でおきている問題を同等にとらえるのは空想じみているとみたのだ。アメリカとヨーロッパの金融の専門家たちは、自分たちの金融システムは日本のそれよりもはるかに洗練され効率的だと確信していた」

高リスク商品にのめりこんだ世界の金融機関

 まずは、日本人が登場する部分から紹介したが、「マーケットで何が起きていたのか」という本書の主題に、ここで戻りたい。本書は最初、アメリカの名門銀行であるJPモルガン(後に合併でJPモルガン・チェースになる)の担当者たちが、企業の倒産リスクを取引するデリバティブであるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)をどのようにして開発し、市場を育てていったのかを関係者の証言をもとに、1990年代に始まった金融革命の歴史を振り返る。

 そして、CDSブームが到来した2000年代に入り、なぜかパイオニアであるJPモルガン・チェースがライバル各社に遅れをとってしまう。CDSを進化させ、サブプライムローンを活用したCDOと呼ぶ金融商品を、ライバル各社は派手に扱い利益を伸ばしたのに対し、JPモルガン・チェースはそうした商品をうまく取り扱えなかった。結果的に、金融危機を経てライバル各社はCDOなどに絡んで巨額の損失を計上し、JPモルガン・チェースは大きな痛手を負わなかった。本書は、なぜJPモルガン・チェースは新型の金融商品で火傷しなかったのかを描くことで逆に、他の金融機関のずさんな経営を白日のもとにさらす。

 答えは簡単だ。JPモルガン・チェースの経営トップのジェイミー・ダイモンは複雑な仕組みの新たな金融商品の特性をも深く理解し、リスク管理能力に優れていたからだ。ダイモンは単に、リスクが大きい商品の取り扱いを広げることをしなかったのだ。JPモルガン・チェースの他のリスク管理担当の幹部も、リスクの高い金融商品を扱っているライバル各社がなぜ利益を伸ばしていけるのか理解できずに真摯(しんし)に悩む。金融危機が起きて初めて明らかになることだが、ライバル各社はペーパーカンパニーを活用して簿外債務を積み上げていただけで、本当に利益を上げていたわけではなかったのだ。


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