偏差値が低迷するソニーとシャープ
家電7社の収益性(ROA)、安定性(自己資本比率)、資金繰り(インタレストカバレッジ)、先行投資、給与水準、株価上昇率に関する偏差値を図-10に示した。平均値は表-7に示されている。シャープは全ての面で劣っている。ソニーは、株価上昇率と給与水準は高いものの、経営に関する指標は見劣りし、偏差値は低い。シャープとソニーの業績はなぜ低迷しているのだろうか。
ゆっくりと衰退するソニー
90年代までソニーは世界で最も革新的な企業の一社だった。ソニーの経営は、どのあたりからおかしくなったのだろうか。2004年に当時の会長兼CEOの出井伸之が、「ビジネスウィーク」誌により世界のワースト経営者の一人に選ばれたあたりからだろう。その後、韓国サムスンに収益力で圧倒的な差をつけられ、世界のブランド評価でもサムスンに逆転されるようになった。
出井の後を継いだハワード・ストリンガー時代もソニーの収益は低迷し、いまもその状態は続いている。ソニーの総資産営業利益率を、全社と金融部門を除く部門について計算した数字を図-11に示した。営業利益の段階で金融を除く部門は過去6年のうち4年赤字を出している。出井以降の経営者の責任は明らかと言ってもいいだろう。
ソニーのセグメント別の営業利益額の推移を図-12に示したが、着実に営業黒字を出しているのは、金融、映画、音楽部門であり、製品・デバイス部門は赤字と黒字を行ったり来たりしている。この理由の一つは、ブランド力を維持する努力を怠ったからだろう。
例えば、ソニーのパソコンは、かつてはブランドだった。しかし、ソニーが他社製品と差がない安価なパソコンを手掛けるようになるとブランド力は急速に失われた。ブランドが失われ価格で勝負することが必要になるコモディティ商品になったのであれば、部門売却などの戦略が必要だ。IBMは10年以上前にパソコン部門を中国Lenovoに売却したが、ソニーがパソコンの製造部門を売却したのは昨年のことだ。他の商品でもソニーのブランド力は落ちているが、有効な戦略は打てていないように見える。
製品で利益を出せない状況が長く続いているにもかかわらず、ソニーが大きな行き詰まりを見せないのは、過去の蓄積による資産と着実に利益を出す金融部門があるからだ。しかし、製品部門は依然として立ち直りの気配はない。期待されているデバイス部門も、黒字化したのは最近のことだ。使用資本に対する利益率は、長期に亘って極端に低い状況が続いている。製品から手を引き、金融だけの企業になったほうが良いと言えるほどの低迷振りだ。
ソニーの全社及び金融以外の部門についての自己資本比率を図-13に示した。波を描きながら低下が続いている。体力が徐々に奪われているのだ。増資などにより4400億円を調達することが発表されているが、製品部門の収益力改善が行わなければ、総資本が水膨れするだけで、体力の低下は止まらない。ブランド力をどう再構築するのか、デバイス部門に加え、部品以外の製品部門の収益力をどう回復するかが重要になる。