2024年11月24日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年9月17日

 例えばアメリカの失業率は9.7%(8月)で26年ぶりの落ち込みとなり、日本の完全失業率5.7%(7月)は戦後最悪だ。韓国は全体では3.8%(7月)にとどまったが29歳以下の若年者を対象とした失業率は8.5%と深刻だ。また回復が最も遅れると予測されるEU(ユーロ圏16カ国)の若年層(25歳未満)の失業率はなんと19.7%(7月)とボロボロなのである。

政府を悩ます大学生の就職難

 実は経済成長の裏で失業率が高いという構造こそ、ここ5年余りの中国経済の特徴である。なかでも若年層、とりわけ大学新卒者の就職難は毎年政府を悩ませる頭痛の種だ。

 その新卒大学生の就職率は約68%というのが公式の数字だ。これとて十分に深刻なのだが、現実はそれどころではない。

 広東省の大学関係者が語る。

 「数字には裏があります。留学や大学に残る者も就職にカウントされますし大学が設立した企業へ一時的に雇用する方法など水増しが横行しています。ひどいケースでは、就職が決まらない学生を卒業させないこともあります。68%はこうして繕った数字です」

 また都会であぶれた学生を農村が官僚として受け入れる制度も数年前から行われているが、期限付きで〝下放〟された学生はいまや都会から戻ってもポストがないために農村に残されたまま宙ぶらりんの状況が続いている。

 そもそも中国政府の4兆元(約53兆円)の景気刺激策は「保八」(GDP8%を保つ)であり、それは新規雇用1000万人の確保が目的だったとすれば皮肉だ。

内実的に分裂した国

 いまや世界を救うはずの中国経済にあってなぜこんなアンバランスが存在するのか。

 その答えはおそらく中国が内実的に分裂しているからだ。一つは国家の恩恵を受けられる特権階級の国で二つ目はその他大勢だ。かつて中国は人口の20%が金融資産の80%を握っているといわれたが、イメージとしてはこの20%とその他大勢である。そして財政出動により20%の人々が牛耳る金融資産はさらに高まっているはずだ。二つは同じ土地に暮らし同じ国の名を冠しているがまったく違うルールに支配された国だ。だからこそ貧困と繁栄、失業と高い経済成長が共存していても不思議ではないのだ。

 大学生たちは特権階級の予備軍だが本当に〝国境〟を超えようとすれば大卒だけでは足りない。特権階級の椅子にそれほど空きがないことを考えれば、いずれ王政時代の科挙試験ほどの難関となっていくはずだ。ただし、その場合の選抜方法は試験ではなく社会での競争となる。

 だが一度この階層の仲間入りを果たせば、世界経済がどれほど疲弊しようが生活レベルを落とす必要もない暮らしが待っているのだ。

 実際、世界金融危機の影響を最も受けたとされる広東省を回ってみても、ある一定水準を満たす人々には危機感など何もない。官需ががっちり彼らを支えているからだ。彼らは民間人といっても元銀行や政府機関を辞めた者たちで、仕事もそうした関係のなかから生まれているのがほとんどだからだ。


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