イタリアの遡及減額の波紋
イタリア政府は2008年に、20年までに発電量の27%を再エネで賄うとの目標を立てた。このために、1268万kWの風力発電と860万kWの太陽光・太陽熱発電設備を導入する目標も設定しFITを導入した。ところが、太陽光発電では事業者に有利な買い取り価格が設定されたために、政府の予測を大幅に超える設備導入が進んだ。
このために、イタリア政府は、何度か制度を改定し、買い取り価格の減額を行ったが、13年の再エネによる発電シェアは、水力19.4%、太陽光7.6%、風力5.3%、地熱1.9%、合計34.2%と20年の目標値を達成した。設備導入量も13年末の時点で風力は856万kWだったものの、太陽光は1793万kWと20年目標の倍以上になってしまった。
電気料金上昇を抑制するために、14年8月にイタリア政府はFITの買い取り価格を遡及して減額する政策を発表する。減額の方法は3つあり、事業者が選択可能としていたが、買い取り価格を遡及して8%減額することが基本だった。事業者にとっては、当初予定していた収益が保証されなくなり、訴訟が起こされる事態になった。
この減額により、イタリアの再エネ設備導入は急減し、14年には太陽光39万kW、風力11万kWの導入に留まった。イタリアの再エネ事業はもはや事業者に魅力的な投資ではなくなったのだ。
マフィアの新しいビジネスモデル
パネルを盗みにドイツ出張
資産を押収され、イタリアの魅力的な投資機会も失ったマフィアは、再エネで新たな「事業」を始めている。ドイツのラジオ局はマフィアが太陽光パネルを組織的に盗んでいると報じている。屋外に設置されている太陽光発電設備に夜間侵入し、パネル、インバーターを盗む手口だ。
200枚のパネルを盗むのには、多分2時間掛からないと報じ、その損害額は42000ユーロ(570万円)になるとしている。太陽光パネルの盗品を捌くマフィアの市場は、イタリア、東欧、北アフリカにまで広がっているとの報道されている。
窃盗にあっても被害額が少額であれば、事業者は保険請求をしないことがある。保険会社に高額な警報装置の設置を要求される、あるいは保険を掛けられなくなる事態を懸念するためだ。パネル盗難の被害額は年間に数千万ユーロに達するとされ、ドイツ警察も対策に乗り出したが、その対策費は税金であり、再エネで値上がりした電気料金に加え、警備費用まで消費者が負担させられるのは困ったものだと報じられた。
再エネ政策の見直しが必要
再エネ政策の見直しが欧州諸国で相次ぐのは、政策の費用対効果が疑問視されてのことだ。再エネ導入のメリットは、自給率向上と温暖化対策だ。一方、電気料金上昇のデメリットがある。再エネ導入のメリットの一つとされるグリーンビジネスの展開については一筋縄では行かない。米国のように中国、台湾製太陽電池に課税し市場を守らない限り、中国製が市場の大半を占めるようになる。電気料金上昇による産業への影響を考えると、グリーンビジネスがメリットをもたらすかも疑問だ。
再エネ導入による自給率向上、温暖化対策は、例えば原子力の活用など他の政策でも達成可能だ。欧州諸国は、再エネ導入のメリットが、大きな電気料金上昇を受け入れられるほどのものではないと判断している。
2030年の日本の電源構成の目標によれば、再エネに使われる資金は、13年比で3.2から3.5兆円増加する。系統安定費用がさらに追加で必要になる。果たしてこれだけの資金を投じ、得られるものがバランスするのだろうか。原発の稼働により減少する化石燃料購入費を、再エネに回すことにより電気料金の上昇を抑えるのが政府案だが、電気料金の引き下げを行わないことは正当化されるのだろうか。
再エネが多くの問題を解決する訳ではないことに欧州諸国は気がついている。日本も欧州諸国の再エネ見直し政策をよく分析し、エネルギー政策を考えるべきだろう。
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