2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年9月29日

 新アメリカ安全保障センター(CNAS)のコルビー上席研究員と米戦略予算評価センターのモンゴメリー上席研究員が、8月25日付ウォールストリート・ジャーナル紙に連名で寄稿し、中国の南シナ海での人工島建設などは米国の軍事的優位に影響しないとの見解は楽観的に過ぎ、中国に対して外交圧力を高めるなど同国にとってのコストとリスクを高めるべきだ、と主張しています。

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 すなわち、人工島の建設など南シナ海での中国の素早い動きは外交問題を越えて、周辺国や米国にとって早晩深刻な軍事問題になりうる。ハリス米太平洋軍司令官は、これらの島は戦闘機、偵察システムや電子戦争能力の支援になると述べている。他方、多くの分析家は中国の施設建設は米の軍事的優位を大きく変えるものではないと信じているようだ。中国の人工島は有事の際には容易な攻撃目標になるという意見もしばしば聞く。

 しかし、この様な見解は余りに楽観的だ。適切な軍事力であれば少量でも当該地域の軍事バランスを変えるし、中国はこれらの地域での軍事力増強により重要な強制的優位を得ることができる。大規模な港湾施設や長い滑走路によって、人工島は海洋部隊や前方展開する航空機の兵站ハブになりうる。それにより海軍の作戦持続能力を増大させることができる。また偵察機などを一層遠くに恒常的に飛ばすことができるようになる。当該地域の戦闘航空パトロールが可能となる。将来の防空識別圏の設定にも資するだろう。

 滑走路などのインフラがなくても、人工島は対船ミサイルや防空システムの保管所になるし、それは船舶や航空機に対するリスクを高めることになる。中国がこのような武器を南シナ海の随所に置き、武器が相応の射程を持っていれば、小規模の拒否ゾーンを作ることができる。南シナ海の島に設置されたレーダーのネットワークを通じて、平時には良い状況情報を、戦時には良い攻撃関連情報を得ることができる。

 更に大きな意味合いがある。中国の軍事プレゼンスの拡大は「忍び寄る拡大戦略」に貢献し、中国の影響力を徐々に拡大する。多くの周辺国は小規模の戦力展開能力しか持っていないので、中国によるこれらの島への軍事力の展開は見てくれ以上の大きな影響を持つ。周辺国の対中バンドワゴン化(対中均衡よりも対中接近)を高める可能性もあるだろう。前方に展開された軍事力のため、周辺国は、米中の間で一層中立的な立場をとるようになるかもしれない。米国の周辺国施設へのアクセスも影響されるかもしれない。

 これらの島の中国軍は、対米戦闘に当たっては、長い間もたないであろうが、米軍アセットの動きに関する重要情報を報告できるし、米軍はそのために軍事力の運用方法を変えねばならなくなることもあり得る(突然の遭遇で軍事力を行使せざるを得なくなったり、中国が主張する島への対処をためらうなど)。


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