「ところで、他の見方もあります。今日、こうした問題やその原因の責任をほとんどロシアに被せようという試みを我々は目にします。難民の問題は、ロシアがシリアの合法な政府を支援しているから発生したというのです。
第一に指摘しておきたいのは、シリアからやって来た人々は何よりもまず戦闘から逃げてきたということです。これには外部からの武器やその他装備の提供がかなりの程度、結びついています。人々はテロリズムの残忍さから逃げ出しているのです。そこでいかなる残忍なことが行われ、すでに述べた文化財の破壊と同様に人々が死に追いやられているのを我々は知っています。そして何より、彼らは原理主義から逃げてきたのです。もしもロシアがここでシリアを支援しなければ、この国の状況はリビアよりもさらにいっそう悪くなっていたでしょうし、難民の数もさらに増えていたでしょう。
第二に、シリアの正統な政府を支援することは、リビア、イラク、イエメン、アフガニスタンといった国々の場合とは異なり、難民の総数とは全く関係ありません。我々は世界のこうした国々・地域の状況を不安定させているわけではありません。また、我々は、国家組織を毀損して権力の真空を作り、テロリストでそこを埋めるようなことはしていません。したがって、その問題を誰かになすりつけることはできないし、我が国の言い回しを用いるなら、頭痛を健康な人に押し付けることはできないのであります。
アサド政権の退陣を求めるアメリカ
しかし、すでに申し上げたように、今は別のことを考えねばなりません。今必要なのは、シリア政府、クルド反体制派、いわゆる穏健な反体制派、そして域内各国の力を結集し、シリアという国家そのものの存立の危機に対する戦いと、テロリズムとの戦いにあたることです。このようにして力を合わせるならば、問題は解決可能なのです」
難民の発生は「原理主義」によるものであり、これと戦うアサド政権及びロシアの支援があるからこそ難民はこの程度で済んでいるのだというロジックである。これが事実でないことは既に述べたとおりであるが、一方、「権力の真空」を「テロリスト」が埋めるというシナリオはそれなりのリアリティを持つ。こうした虚実の間でロシアの「大連合」構想がいかに評価されるかが、今回の国連総会におけるひとつの鍵と言える。
もっとも、オバマ米大統領は今月25日、キャメロン英首相との電話会談でアサド大統領の退陣を求める方針を改めて確認したほか、国連総会中に予定されている米露首脳会談では(シリア問題ではなく)ウクライナ問題を中心に取り上げるようロシア側に要求していると伝えられる。アサド政権を温存しつつウクライナ問題を後景化するというロシアの目論見に先手を打った形だ。
これに対してプーチン大統領は国連総会で何を語るのか。ドゥシャンベ演説のトーンを引き継ぐならば、西側に対する厳しい文言は抑え、シリア情勢の調停者としてのロシアを前面に出すものとなろう。一方、「大連合」構想の芽が完全に失われたと見るならば、小欄でも取り上げた昨年10月の「ヴァルダイ会議演説」のように激しい反西側的トーンを伴ったものとなるかもしれない。さらには「大連合」構想が失敗した場合、ロシアは本当に単独軍事介入に踏み切るのか、その規模や程度はいかなるものとなるのかといった問題もある。
プーチン大統領の一般討論演説は今月28日に予定されている。
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