このような状況で本格的に中国と戦力を向き合わせるようなことをアメリカは本当にするのだろうか。万が一、中国国内に大きなナショナリズムのうねりが起き、共産党政権が引くに引けない状況が生まれてしまえば、中国も臨戦態勢に入り、アメリカ国内からは中国マネーが一斉に引き上げてゆくことになるだろう。
米中の基本は対立ではない
こんなことになれば、かつてアメリカ社会が経験したことにない大きなダメージがアメリカ経済を襲うことは間違いない。株価暴落どころの話ではない。もちろん日本も無事ではいられない。
こうなったとき、アメリカはロシアに対して現状で有している優位を維持することができるのだろうか。
そう考えたとき、その状況がアメリカの望むもので、リスクを冒す価値のあることなのか否か、大いに疑問である。しかも現状、中国が曲がりなりにも「自由航行は守る」と約束しているのである。
米中の基本が「対立ではない」とされるのはこうした状況を踏まえてのことだ。
つまり、普通に考えれば両国は、互いの国民世論に一定の配慮をしながらも、しっかりと協力の果実を得ようとするのである。
そうした視点で見たとき、米中首脳会談前の動きとして、互いに10年間のマルチビザを発給し合ったことや両国間に犯罪者引き渡し協定がないにもかかわらず、アメリカが国外逃亡していた官僚・楊進軍を捕まえて中国側に引き渡した動きなどが日本であまり報じられていないことに不安を覚えるのだ。
実際、こうした報道に日々接している中国人は、決して日本で言われているような「米中首脳会談が失敗だった」などという受け止め方をしてはいない。それどころか一定以上の成果があったというのが大勢の見方だ。
そのため米軍が敢行した「自由の航行作戦」に対する反応も、驚くほど静かだった。
まず、反応したのが外交部の報道官と外交部長止まりであったということだ。これは問題がある一定の範囲にとどまっていることを示している。
次にメディアも静かであった。政府批判も行うことで多くの読者を獲得している『新京報』のトップ記事が、同時期に行われていた5中全会(中国共産党中央委員会第5回全体会議)の年金改革問題であったように、ほとんどのメディアは年金問題や経済の5カ年計画の方をより大きく扱ったのである。