2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月7日

 米イェール大学ロースクール中国センターのウェブスター上席研究員が、Diplomat誌ウェブサイトに10月29日付で掲載された論説にて、中国は南シナ海問題をめぐり「領海」や「侵犯」という言葉の使用を避ける等、相手に法的な議論の土俵を与えないように曖昧戦略を維持している、と指摘しています。

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“領海侵犯” 避ける中国

 すなわち、米国の航行自由行動(FON)に対する中国政府の反論は言葉のパズルだ。微妙に言葉を使い重要なことについては戦略的曖昧さを維持しようとしている。

 今年5月の中国外交部報道官の発言は「中国の主権侵犯と安全保障への脅威」と言い、10月初めの同報道官の発言は「中国の領海侵犯と領空侵犯」と言っていた。しかし、「領海侵犯」というのは不都合になった。満潮時に水没する島は海洋法の下で領海を設定することができない。米国の行動を主権侵犯ということは海洋法上許されない主張をしていることになる。米はスビ礁(満潮時に水没する)の12カイリに入ることによりこの点をテストしようとした。

 米国の行動を受けて、外交部報道官は、米船は「不法に」南シナ海の関係の「周辺水域」、「近くの水域」、「隣接する水域」に入ったとは言ったが、「領海」とは言わなかった。また「中国の主権と安全保障権益に脅威を与えた」と述べたが、以前のような主権「侵犯」とは言わなかった。中国は「中国の主権と安全保障権益を…害する」と述べ、「中国の主権と安全保障に有害な」行動は慎むべきだと述べた。

 報道官はスビ礁に領海があるかどうか、米海軍が中国の主権を侵犯したかどうか、海域のどこまでに中国が主権を主張するのかなどについて立場を述べることを一切避けた。これはかなりの変化である。

 国防部の報道官も「領海」とは一貫して言わず、「沿海水域」とか「付近水域」と述べた。米国の行動を違法とは言わず、航行の自由の「乱用」だと述べた。米国の行動は中国の安全保障(主権とは言っていない)にとり重大な脅威であると述べ、米国が中国の主権と安全保障に関する懸念を尊重すべきだと述べた。


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