2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月7日

 「領海」という言葉を避け、米の行動を違法と考える根拠については明確な発言を避けることによって、中国はその主張の詳細を曖昧にしようとしている。中国の主張には国際法上の根拠がないことを突きつけようとした米国の作戦目的を否定しようとしたのである。

 しかし、10月28日の外交部報道官発言は「米国の行動は海洋法と中国の関係国内法に違反する」とも述べた。もし中国が米の行動を海洋法違反と述べるのであれば次のことが問題となる。中国はどこの水域でいかなる法的管轄権を持つのか。スビ礁の周辺水域に領海を主張するのか。そうであれば米艦船は海洋法の下での無害通航の規定に如何に違反したのか。あるいは中国は南シナ海にEEZ(排他的経済水域)を主張しているのであれば、その境界はどこにあり、また海洋法で許されるEEZ内での軍事行動につき米艦船は何に違反したのか。

 国際法は先例と国家慣行を通じて変遷するものであり、海洋法の適用については正当な意見の相違はありうる。しかし、当面、中国は注意深く相手に法的議論の土俵を与えないようにしている、と指摘しています。

出典:Graham Webster,‘How China Maintains Strategic Ambiguity in the South China Sea’(Diplomat, October 29, 2015)
http://thediplomat.com/2015/10/how-china-maintains-strategic-ambiguity-in-the-south-china-sea/

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“負け戦”から“政治戦”へ転換図る中国

 海洋法に明示的に規定されている通り、国際法上、人工島の周りに領海を設定することはできません。この記事は、中国の公的発言の言葉使いを分析し、当初言われていた「領海」や「主権」あるいは「侵犯」といった法的言葉が使われなくなっており中国はこの点を曖昧にしようとしており、それは法的議論の土俵を相手に与えないためである、と分析しています。今後の推移を見る必要はありますが、非常に興味深い指摘です。

 中国はその主張の不合理なことが国際社会に一目瞭然になることを避けるため曖昧戦略をとり、負け戦ではなく政治戦に終わるように努めているのでしょう。南シナ海は外交の戦いであり軍事上の戦いです。更にそれは「法律戦」、知的戦争であることが分かります。

 中国に対してはクレディブルな対応を緩めないことが重要です。中国対国際社会という構図を作ることが重要です。ASEANや韓国、欧州等への対話と働きかけを通じて国際社会の連合、連帯を築いていかなければなりません。

 中国が米の航行自由活動を海洋法違反と述べたことについて、記事が、中国はどこの水域でいかなる法的管轄権を持つのか、スビ礁の周辺水域に領海を主張するのか、米艦船は海洋法の下での無害通航の規定に如何に違反したのか、など中国に突き付けるべき法的質問を具体的に示しているのも興味深い点です。

 マレーシアで開催されていたASEAN拡大防衛相会議(ADMMプラス)では本件問題に関する中国と米国等との間の対立のため共同声明が出されませんでした。ASEAN内部でも国により温度差があります。ASEAN中心の会議ではコンセンサスが原則のため往々にして決定がうやむやになるのは残念なことです。他方、米中国防長官がとにかく会っていることは、事態のエスカレーションの可能性を低めることに繋がるでしょうから、歓迎できることです。もっとも、中国側は一歩も引かなかったと報じられています。

  
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