ボタンひとつで世界中にミサイル攻撃ができる今日、対空防衛は国の安全保障の要とも言える。米国では1998年から累計27億ドルを費やした「首都防衛」システムがあるが、このシステムは「ゾンビ・システム」と呼ばれ、役に立たないものの筆頭として批判を浴びている。
“ガスを詰め込んだ風船”との批判まで……
JLENS(Joint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor System)という名称の防衛システムは、レーダー搭載の無人飛行船網で空からの脅威を感知する、というもの。1998年にペンタゴンが採用を決め、レイセオン社が請け負った。
システムは2機でペアの飛行船から成り、軍事基地や首都上空1万フィートを「パトロール」する。レイセオンによるとこの高度では飛行船の感知レーダーは340マイルの視界を保ち、1機が「サーチ」を行いもう1機が対象物の高度、速度などを感知し地上に伝える仕組みだ。信号を受けた地上部隊がそれに応じて攻撃目標を破壊する。しかし当然のことながら、これまでJLENSシステムが空からの脅威を感知したことはなく、米軍が応戦したこともない。
このシステム、能書きとは裏腹に当初からトラブル続きだった。僚機を敵と見なしたり、飛行物体の追跡が不可能だったり、その性能には疑問符がついていた。
2012年のペンタゴンによる評価では「4つの分野で致命的欠陥がある」と判断され、13年にも「システムの信頼性は低い」との評価が下され、5段階評価で2の結果だった。軍の内部情報をウィキリークスで公表した、として米国から国際指名手配扱いになっているエドワード・スノーデン氏は繰り返しツイッターなどでJLENS批判を行った。
共和党の大統領候補者討論会でも、マイク・ハッカビー氏が「あれはガスを詰め込んだただの風船」と批判したが「あまりにも多くの資金をつぎ込みすぎたがゆえに政府は今更JLENSを廃止できない」と語った。