実践演習途上で起きた“事故”
そのJLENS、今年10月には風に飛ばされて150マイルも進路を外れた上に、電線を遮断し木に引っかかって停止、という惨状を見せた。電線の遮断によりペンシルバニア州では3万5000世帯が停電。飛行船追跡のためにF15戦闘機が飛ばされ、最終的に木にひっかかった飛行船の「ヘリウムガスを抜くために」軍が機銃掃射を行う、というものものしさだった。
それでもオバマ政権はJLENS防衛の姿勢で、来年度の軍事予算の中でこのシステムに4050万ドルの振り当てを提唱していた。しかし米下院がこれに反対、結局16年度予算としてJLENSに認められたのは1050万ドルだった。
これは米国内でも驚きを持って受け取られた。民主、共和両党ともにJLENSの廃止には消極的で、10月の事故の後も「軍による事故原因究明が発表されるまで、JLENSに致命的欠陥があるという結論は出せない」という意見が多数派だったためだ。
今回の予算の大幅カットはJLENSをゾンビから本物の死体に変えるのか? 政府内でも意見はまだ分かれている。「あのような役立たずのシステムはただちに廃止すべき」という主張があるかと思えば「今回の予算カットは小休止にすぎない。首都防衛レーダーシステムは必要」という意見まで、民主共和両党内部でも統一していないのだ。
実はJLENSは3年計画の「オペレーショナル・エクササイズ(実戦演習)」の途上にあった。しかし今年1月開始予定がシステム不具合により8月に伸び、その直後に10月の事故、ということで演習は無期停止状態なのだ。とりあえず予算をカットし、演習を続けてその結果で命運を決定する、という日和見姿勢が米政府内にある。
27億ドルという巨額をかけた国家プロジェクトを廃止するのは勇気のいる決断だ。しかしゾンビシステムと揶揄される、役に立たない飛行船を首都上空に飛ばし続けることは、世界からの嘲笑を浴びかねない。今後のJLENSの命運に注目が集まっている。
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