2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2016年6月12日

 しかし、19歳の妻とスラムで暮らす元大手企業サラリーマンのように、「ほぼ完璧に現地と同化」しながら、突然の妻子の病気で生活崩壊に到る人もいる。この人物の場合は著者に金を無心し、やりとりは赤裸々だ。

水谷竹秀(Takehide Mizutani)
1975年三重県生まれ。上智大学卒業後、新聞記者などを経てフリーに。『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健ノンフィクション賞受賞。

 「お金を渡す以上、徹底的に取材しましたけど、今回は試行錯誤が多く悩みました。落ち着くかと思うと新たな難題が待っていたり」

 変転する事態に食らい付いて行く水谷さんのジャーナリスト魂も、読みどころだ。もう一つは、本人ではなく「親の介護のための海外移住」ケースを取り上げたこと。

 「親の認知症や徘徊、介護疲れなどは日本の社会の差し迫った問題なので、フィリピンでの実例はぜひ入れようと思いました」

 一時脚光を浴びた日本人向け介護施設がほぼ全滅した現状は知っておくべきだが、それでも成功例がないわけではない。

 「認知症の95歳の母親を看取った娘さんの場合、6年間に120人のメイドを雇い、キーワードはメイドと悟ったそうですね?」

 「田舎の若い女性など、大家族主義のいい部分を受け継いでいます。親族の支えといい出会いがあれば、海外介護という選択肢もありです」

 日本人の生活設計はアジアにも拡大中。水谷さんは今後、タイも含めてその活動の状況を記録すると言う。

  
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◆Wedge2016年1月号より

 

 

 

 

 


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