2024年12月12日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2016年2月3日

 「入札」というまだまだ一部にしか知られていないビジネスエリアが、実はものすごく大きな可能性を秘めているということを強烈に知らしめてくれる本である。

 近年日本でも使われるようになったが、「ブルーオーシャン」という言葉を耳にするようになった。競争相手がいない、あるいは非常に少なくて、有利な立場で余裕をもってビジネスを展開できる状態を示した経営戦略の用語であるが、まさに入札ビジネスは「ブルーオーシャン」であるといえよう。ノウハウを知っている参加者が限られていて、新規参入がまだ十分でない環境であるゆえに競争相手が少なく、有利に事を運びやすい。

 本書が特徴的なのは、著者が自分の会社で起きた経験をもとにして、本音ベースで書いている点である。東日本大震災をきっかけに窮地に陥りかけた自社の事業を立て直すために、入札に目をつけたのが始まりだった。著者の経験にもとづいているだけに真剣なリアルさが伝わってくる。

 経済記者でありながら、筆者(中村)にとっては、入札というと官公庁が調達のためにやっているもの、といった限られたイメージしかなく、では具体的にどうやっているの、というところまでは正直、詳しいことはよくわからなかった。入札にあたって資格が必要だとか、電子入札もできるなどということは、恥ずかしながら本書を読んで初めて教えられた点でもある。実際、著者の会社では2年半で20件、2億9600万円もの成果を上げたというのだから敬服する。そして入札にまつわる様々なノウハウを蓄積して、入札セミナーを行ったり、オンラインセミナーにまで結びつけてしまうのだからそのバイタリティたるやすごい。

商機はいつでもある

 冷静に考えてみれば、この国の経済の一定割合は、まさに官公需で支えられているといって言っても過言でないだろう。官庁や公的機関に数多くの人が雇用されていて、それだけでも需要はかなりのものになる。そうした人たちが税金を使って行政サービスを行うのだから、需要は常に存在するのである。本書はタイトルで「20兆円の入札ビジネス」とうたっているが、まさに大小合わせればそれほどの規模に及ぶということである。

 具体的な案件が多岐にわたることも驚きだ。自衛隊の駐屯地があるところではおにぎり、弁当、マスク、プリンターのトナーなどのあらゆるニーズがある、という指摘は新鮮でおもしろい。人の集まる場所や組織にはあらゆるニーズがあるというビジネスの典型である。食堂を持つ大所帯の公的機関があるところでは、食品や調味料の需要があるし、子供の多い地域では学校の卒業アルバムなどのニーズがある。庁舎内営業のチャンスや、選挙が近づけば関連のポスターの印刷などの需要もあるだろう。まさに著者のいう「回転寿司のように流れてくる」という表現はその通りであろう。商機はいつでもあるのである。


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