最低基準を緩和すれば、子どもの安全は守れない。保育園での死亡事故は、例年、認可保育園より基準が手薄い場合が多い認可外保育園で多く起こっている。厚労省の調べでは、2015年度の死亡事故は、認可で5件、認可外では12件に上った。取材を通して、多くの親たちから「どこでもいいから預けたいわけではない。保育の質も考えて欲しい」という声が聞こえている。
今すべきは保育士の待遇改善
待機児童の解消に近道はない。今すべきは保育士の待遇改善だ。労働条件と労働環境の改善なくして保育士の離職は止まらず、潜在保育士(資格を持ちながら働いていない)が現場に戻ることはない。現在、約40万人の保育士が保育園で働いている一方で、約60万人もの潜在保育士がいる。厚労省によれば、保育士の離職率は公立も私立も含めた平均は10.3%だが、経験年数2年未満の私立では17.9%にも上る。若いうちの離職が激しく、経験年数7年以下の保育士が約半数となっている。離職の1番の理由は「給与が低い」だ。
厚労省「賃金構造基本統計調査」(2014年)によれば、全産業の平均月給は29万9600円の一方、保育士の月給は21万3000円に留まり、約8万6000円も低い。これをもし、月5万円アップを図っても、単純計算でも予算は2400億円で済む。保育士が増えて、待機児童も解消され、親も働くことができれば、決して大きな予算ではない。政治が判断すれば、すぐにでも実現できることだ。
そして、忘れてならないのは、人員体制の強化、つまり、配置基準の引き上げ、規制の強化だ。保育士の離職理由の2位が「仕事量が多い」となっている。人手を増やすことも賃金アップとセットで考えなくてはならない。働きやすい現場になってこそ、離職が減り、潜在保育士が戻ってくるはずだ。今回、国が行う対策はまるで逆で保育士をよりいっそう疲弊させ、悪循環を生み、現場を危機的状況にさらすだけだ。現場の声にもっと耳を傾け対策を講じなければならないのではないか。
賃金と人員体制という待遇改善なくして、保育所の定員増の根源となる保育士増は望めない。規制緩和が保育の質の劣化を招く可能性は高い。この状況に、母親ほど「預けられたのは良かったけれど、こんなところに子どもを置いていっていいのだろうか」と悩み、仕事を辞めるか真剣に悩んでいる状況だ。机上で数字合わせをすれば、規制緩和は予算もかけず、「おいしい」方法かもしれないが、そのしわ寄せは最終的に子どもにくる。大人の都合で保育の施策を考えては、関係する誰も活躍などできない。
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