そして、「認可保育園」の増設のために、緊急対策では、認可外保育園の積極的な認可化をうたっている。これは、待機児童としてカウントされる認可外保育園が認可になることで、人と運営主体そのものは変わらないけど、数字上、待機児童が解消されるマジックに過ぎない。
懸念される質の劣化
さらに、恐ろしいのは、厚労省の資料に小さく書かれている項目だ。「認可基準を満たす施設の積極的認可」のなかで、「是正を要する事例」として、「認可の条件として法人の実績や職員の経験年数等を必要以上に求め、新規参入を事実上困難にしている事例」と書かれている。
これは、「企業の新規参入を促すために、今まで保育園を運営した実績がなくても良いですよ、保育士不足でベテランや中堅を雇うのは難しいでしょうから新人ばかりでも構いませんよ」という意味だ。素人集団の保育を認めることに、恐怖を感じないだろうか。たちまち質は劣化し、保育士もバーンアウトして辞めていくだけだ。
国は、企業の参入の積極展開を狙っているが、もともと労働集約的な業界で人件費比率が7~8割かかる保育事業に本来、利益を求めるメリットは薄い。しかし、企業が人件費を抑えるだけ抑えてそこから利益を求めるケースが目立っているため、若い保育士が使い捨て状態だ。共産党の横浜市議団が調べた横浜市内の民間の認可保育園の人件費比率が裏付ける。同市議団の調査では、2010年度、11年度の人件費比率は、社会福祉法人の平均は71.9%、70.7%だったが、株式会社平均は53%、53.2%と低かった。株式会社のなかには、42.2%まで人件費比率を抑え込んでいるケースがあり、そうした企業が運営する保育園ではすぐに保育士が辞めていったという。
緊急対策では、その他、保育士の業務負担軽減のためのICT化の推進、保育補助者雇上げ支援等の推進、短時間正社員制度の推進、保育士の子どもの優先入園なども挙げられているが、一切、新たな予算は組まれていない。
国はこれまで、コストがかかることを嫌って待機児童問題にきちんと向き合わず、2000年以降、予算をかけずに規制緩和で解消する方法をとってきた。これは、保育所を利用する世代の雇用の問題と重なる。今、共働きを必要として保育所を利用したい年齢層は、就職氷河期世代に当たる。この世代は、雇用の規制緩和で不安定になり、切迫した状況で預け先を求めているが、その子どもは保育の規制緩和で劣悪な環境に置かれてしまう。