今年3月、中国・天津市で小中学生など7人が連続して自殺し、教育関係者や保護者の間に衝撃が走っている。12歳の子どもが残した遺書には「毎日、目を覚ますと、太陽の代わりに宿題が見える」と書かれていたという。
受験競争が激しい中国では、長年、子どもの宿題の多さが社会問題の一つになっており、2021年に政府は「共同富裕」の一環として、宿題の量などを減らす双減政策を実施したばかりだった。子どもたちの教育環境はいま、どうなっているのか。
「全員が宿題のために生きているようなもの」
今回の事件に限らず、中国ではこれまでも、勉強や宿題を苦にしたことが原因と思われる子どもの自殺が後を絶たなかった。少し前のデータだが、中国の民間教育機構が18年に発表した報告書によると、16~17年の小中学生の自殺は全国で267件あり、その最も多い理由は「家庭内のトラブル」、2番目が「学習ストレス」だった。
17年、中国の教育プラットフォーム「阿丹題」が発表した調査報告では、中国の小中学生が宿題に要する時間は1日平均で2.8時間と世界で最も長く、日本(0.76時間)の約3.7倍だった。北京大学と協力して研究を行う医療機関の調査でも、青少年の自殺要因の約半数は「学習圧力」だ。
21年にも、南部の江西省や内陸部の陝西省などで小中学生の飛び降り自殺が相次いだことがあり、その際に発見された遺書にも「努力しても永遠に終わらない宿題がある」「宿題のない世界に行きたい」などと書かれていた。
筆者は21年、中国各地で小中学生の子どもを持つ保護者数人にインタビューしたことがあるが、北京在住のある保護者は、小学4年生の息子の学校の宿題について、次のように語っていた。
「宿題は毎日主要な科目で出されていて、うちの子の学校の場合、全部終わるのは夜11時頃になります。放課後は学習塾に行き、帰宅して夕食を食べ、そのあとに学校の宿題をやるのですが、できないところは教えたりしながら、私も一緒につき合います。
やり終わると、担任の教師と保護者で構成しているSNSのグループに報告しなければなりません。40人くらいのグループですが、皆、塾や習い事に通っているので、終わるのは早い子どもでも10時過ぎ。
その頃になると、メッセージ欄に次々と『陳〇〇、終わりました』と書き込まれるので、なかなか終わらないと焦ります。夜12時までかかる子もいますよ。
それからお風呂に入って就寝するので、子どもは常に寝不足です。毎晩、報告を待っている先生も大変ですが、保護者も大変。大げさにいえば、全員が宿題のために生きているような感じです。子どもの宿題を見てあげなければならないため、仕事をやめるお母さんまでいるのです」