むろん、このような報告義務のある学校ばかりではないし、宿題の量は学校や地方によって異なるので一概には言えない。都市部と農村部でも異なるだろう。地方によっては、宿題を家に持ち帰らず、放課後、学校に残って、夜遅くまで教室でやることもある。
いずれにしても、前述のように、宿題を含め、多くの子どもが学習圧力を常に感じる環境に身を置いており、そのことで苦しんだり、悩んだりして、少なくない子どもが自殺を考えるほど思い詰めていることは確かだ。前述の民間教育機関の調査で、自殺の最も多い理由は「家庭内のトラブル」だったが、宿題の問題や成績の悪さがきっかけになって、家族と不和になる可能性もある。
政策で宿題は減らしたが……
このような社会問題が存在することとともに、保護者の経済状況によって生じる教育格差も社会の不満の一つとなっていたことから、政府は21年に発表した「共同富裕」の中で、双減政策を打ち出した。
双減政策とは、「宿題を減らす」「学外教育(主として学習塾)の負担を減らす」という2つの減少を実施する政策のことだ。このうち、「宿題を減らす」ことに関して、小学1~2年生は筆記の宿題はなし、3~6年生の宿題は1日60分以内、中学生は1日90分以内にできる範囲と規定された。つまり、これ以上の宿題を出すことを、わざわざ政府が公に禁止したわけだ。
だが、実施から数カ月後、ある保護者に話を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「確かに、これまで全員に課していた宿題の量は減りました。ですが、その代わり、任意の宿題というか、できればやったほうがいい、という課題が増えたので、結局は同じです。必須の宿題ではなくなっても、皆がやっていかなければならない雰囲気なので、やらざるを得ません。
学習塾も一時的に閉鎖になりましたが、しばらくして、こっそり再開しているところが多いんです。看板は出していませんが、学習塾のようなものは今も現実的にはなくなっていません」
日本の報道では、「双減政策」は「塾禁止令」のように受け止められ、学習塾の教師が失業したり、大手学習塾チェーンが倒産したりしたことがニュースとなった。それは事実だが、中国では「上に政策あれば下に対策あり」で、一部の塾はひっそりと再開されたり、形を変えて運営されたりしている。
上海に住む別の保護者は、中学生になる子どもの学習塾が閉鎖されてしまったあと、親しい保護者同士で相談してマンションの一室を借り、そこに信頼できる家庭教師をこっそり呼んで、子どもたちが勉強できる環境を整えた、と筆者に話していた。そこならば、もし当局の人が取り調べにきても、「自主的に集まって勉強しているだけ」と言い訳できるからだと言っていた。