では、どんな人物が参謀になる資質をもっているのか。見分ける方法はあるでしょうか。
教官ノ善悪、書籍の良否ヲ口ニスルモノハ、到底啓発ノ見込ミナシ。
(天剣漫録第15)
この秋山真之の自戒は、軍人たるもの教官の講義に耳を傾け、書籍を読む。それを自明の前提としています。ところが、平成の若ものたちはなかなか、ハードカバーの単行本は読まないらしい。
おりしも、NHKのスペシャル・ドラマ『坂の上の雲』がはじまっています。これを見ていないようでは、話にならない。この機会にと、司馬遼太郎さんの原作を読んでいる、あるいは読み返している。そんな若者なら見込みがある。宿題を与えましょう。島田謹二博士の『アメリカにおける秋山真之』を読んで、読後の感想を述べよ。
この昭和の企業参謀はかつて現役のころ、秋山真之の生い立ちと学習ぶり、さらにはその講義録を読んで、ひそかに『天剣漫録』にならい、企業参謀十戒を考えてみました。
一、貧乏が参謀を奮い起たせる。満足するな。不満をもて。
二、愛国心が参謀を集中させる。忠誠を捧げる対象をもて。
三、参謀はことばで考え文字で表現する。
日記がわりの和歌と俳句で文章力を養え。
四、参謀は英語ができなければ通用しない。
趣味を英語で読み書け。会話は二の次だ。
五、常にいたずら心と学際的好奇心をもて。囲碁と将棋の戦略戦術を学べ。
六、参謀は与えられた問題を解く力より、自ら問題をつくる力が大事。
七、経営戦略の教科書などない。秋山真之流で自ら経営戦略論を編み出せ。
八、戦史と理論は参謀の文武両道である。
九、新作戦のたびに、常に基本戦術までもどって、その応用を計画せよ。
十、作戦計画を司令官に売り込め。
この第十がむずかしい。自戒のことばとしたのは論語でした。
子曰く、与に言う可くして之と言わざれば、人を失う。与に言う可らずして、之と言えば、言を失う。知者は人を失わず、亦た言を失わず。(衛霊公第15)
大戦略不在の時代には
秋山真之は2元2層の軍事戦略・戦術のうえに「一国ノ頭首ノ定メル大戦略」を考えていました。この「大戦略」とは外交をふくむ「国家戦略」を意味します。とどのつまり、「日英同盟」の大戦略でせっかく日露戦争に勝った日本帝国は、愚かな「三国同盟」で「大東亜戦争」に負けてしまった。大戦略をまちがえたからです。
敗戦後、外交官育ちの吉田茂首相は「日米安保同盟」を結び「軽武装・経済優先」の大戦略で日本国の復興に成功しました。吉田ドクトリンと呼ばれます。つぎの池田勇人首相は「所得倍増」の大戦略で、日本国を世界第二の経済大国へ高度成長させます。世界の奇蹟と呼ばれました。