イギリス海軍は艦長ワンマン主義
ネルソン提督には参謀がいなかった。いや、必要としませんでした。なぜか。
イギリス海軍はエリザベス女王のときにはじまります。ロイヤル・ネービーという名まえのとおり、エリザベス女王が私的に所有していた。仕えていたドレーク船長たちは、先進国ポルトガルやスペインの商船をせっせと略奪して女王に捧げる。これがもっとも利益のあがる“国営産業”でした。
木造帆船でいったん出航すれば、あとは風まかせ。すべては海賊船長の腕次第です。獲物を捕まえて略奪すれば、乗り組んだ海の荒くれ男たちもおこぼれに預かる。私略船(Privateering)と呼ばれました。これがロイヤル・ネービーの伝統となります。艦長ワンマン主義です。
ネルソンの時代になると、さすがに艦隊を組みますが、まだ風まかせの帆船ですから、ふくざつな艦隊運動はむずかしい。戦略や戦術より、見敵必殺の艦長の気迫がなにより大切でした。このロイヤル・ネービーの伝統は 蒸気船になっても変わりませんでした。
では、秋山真之は海軍における戦略戦術論をどこのだれに学んだのか。ナポレオンの参謀ジョミニとプロシャ軍の参謀クラウゼウイッツです。
兵術ノ原理ハ陸海同一ナリ。(ジョミニー『兵術要論』跋文)
自由平等友愛のフランス革命は愛国心に燃える市民軍を登場させました。士気が高いから散兵線を敷いて自由に攻撃できる。かたや、職業軍人による少数精鋭の国王軍は方陣を組まなければ隊列を維持できない。陸軍の戦略戦術にも革命が起きました。フランス革命軍に席巻されてしまったプロシャ軍のなかから、ラインの司令官とスタッフの参謀長という分業の組織が生まれてきます。
さて、ここで平成の社長はお考えになるといい。あなたの企業は、ネルソン提督のように司令官兼参謀長の社長ワンマン体制がいいか。それとも、社長のあなたのそばに参謀を置いたほうがいいか。答えは、あなたの企業の規模、あなたご自身の資質によってちがってくるでしょう。
参謀十戒
名参謀は自然に生まれるわけではありません。本人の努力もさることながら、社長の指導と教育が必要です。とくに、日本の大学教育や経営風土は、勇気があり人情にあつい司令官を育てるには好都合ですが、参謀を育てるにははなはだ不都合です。情に棹して流されるものは大目に見てもらえる。だが、知に働く角のある人物は敬遠される。社長がかばってやり激励してやらないと、企業参謀は育ちません。