過去10年、中国は世界経済の牽引車であったが、いまはそれこそ稼働が不安定な原子力発電所のようなものだ。安定稼働すれば世界は明るくなるが、暴走してメルトダウンを起こせば世界中に死の灰をまいてしまう。中国政府としても、自国初の世界恐慌は何としても避けたいはずだ。しかし、景気の減速で不動産を中心に相当不稼働資産が積み上がり、それに対する融資が不良債権化していると見られている。中国当局が発表している不良債権比率を調べると、過去半年ほどは1.5-1.6%程度との報道が多い。
しかし数字の信憑性を検証するすべもないし、シャドーバンキングのように見えない金融資産も存在する。正確な資産の劣化状況は、政府の発表よりずっと深刻なはずだ。だから、自国の金融機関や経済そのものが既にSpecial Situation化しているとの認識の下、その処理を急いで進めたいと考えても不思議ではない。低めの不良債権比率の発表がまかり通る間に。
中国不良債権ビジネスのリスク
実際、中国の不良債権額は、末端の金融機関まで含めるとどれほどの規模になるか想像もつかない。ファンドにとって大きなお宝の山が目の前にあることは間違いないが、そこは中国というお国柄。情報開示は十分でないだろうし、法律も未整備だ。ファンドと協力関係を結んだという当局も、不良債権処理の過程で彼らに都合が悪い事態が出てきた途端に態度が豹変するリスクもある。個人的感覚であるが、中国の不良債権ビジネスにおいてファンドが取るリスクは、ゴーン社長がとる三菱自工のリスクより遥かに大きいと思う。
ファンドをハゲタカというネガティブイメージで呼ぶ人は、人の弱みに付け込んで大儲けする様を嫌気してのことであろうが、ファンドはSpecial Situationに悩む人に対してソリューションを提供しているに過ぎない。ソリューションとはファンドの提供するマネーそのものだ。そのマネーは投資家から運用の委託を受けたものであり、その大切なマネーをリスクに晒す以上、それに見合ったリターンを追及することは至極当然なことだ。リスクが大きければ得られるリターンも大きい。当然失敗した場合の損失も大きい。極めてまっとうなビジネス行為なのである。
日本のバブル末期において、ファンドの儲け過ぎへの批判はあったが、日本の金融機関は財務の健全性を回復し今日に至る。いま日本の空を飛びかうハゲタカは存在しない。ハゲタカよ、中国の空を存分に飛びまわり、大いに儲けていただきたい。そして彼らが去った後には、中国の経済にも幾分かの健全性が戻ることを期待する。そしてそれは日本経済にとってプラスのはずである。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。