これまでの即席みそ汁の商品化を通じ、同社の製品は男性から強い支持を得ているということが頭にあった。しじみ、肝臓、飲酒というキーワードの関連性は、消費者に「ストンと入り込める」とも考えた。自ずと主要ターゲットは絞られ、「ほぼ毎日お酒を飲む30代の男性」を想定した。
味づくりでは独特な製法による難題に直面した。醸造過程でオルニチンを生み出したみそは、酸味が際立っているのだ。乳酸菌のすっぱ味が残るからだった。効能をアピールするには、オルニチンを増やしたいところだが、味に収拾がつかなくなる。開発セクションと試作を繰り返しながら「25ミリグラム」で合意した。
これだと「しじみ70個分」とうたっても、若干余裕をもってクリアできるということだった。ただし、酸味の問題が消えたわけではなかった。小川はオルニチンみそとブレンドする通常のみそやダシの選択で試行錯誤を繰り返した。ダシは鰹節などを多めにし、酸味に負けないしっかり味にした。
料理をしない人が 企画に参画する意味
09年3月、「70個分のちから」はカップタイプのみでテスト販売を始めた。同社の即席みそ汁では初めて「機能性」を強調する「とがった商品」(広報室)だったからだ。流通ルートは首都圏の駅近くにあるコンビニに絞った。通勤途上でサラリーマンが購入し、会社で気軽に飲むというシーンを描いた。テスト販売の背景には、「売れるかどうか分からない」と、小売などのバイヤーの反応が今ひとつだったこともある。
だが、フタを開けると日を追って販売量は増えた。購入者層も小川の想定からはかけ離れていた。9割以上は男性と踏んでいたが、男女比率はほぼ6対4となった。テスト販売を踏まえ、9月から全国展開の方針が決まった。カップだけでなく袋入り(3食)も追加、流通もコンビニだけでなく、スーパーなどにも拡大することとなった。
企画部門に配属され「わたしでいいの?」と戸惑った小川だが、後日談として、上司からこう言われたと笑う。「料理のできない人、手抜きしたい人など色々な人が企画に参画しないとヒット商品は生まれない」。以来、小川は自分が疑問に思うことや意見を積極的に発するよう心がけた。「味覚に正しいとか正しくないということはない」。その分、自信をもって発言することは難しいが、だからこそ発言しないと何もはじまらないと、自分の役回りにも納得した。
小川の部署は食べ歩きも自由だし、自分が追求する味のためには「製造原価も一切、考えなくていい」のだそうだ。コーポレートメッセージの「味ひとすじ」は、こうした開発体制で裏付けられていると言えよう。社風に育まれ、中堅どころとなった小川の目標はロングセラーとして息長く愛される商品づくりだ。「70個分のちから」には十分、その可能性がある。(敬称略)