2024年11月22日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年2月4日

 本書はサウスウエストだけでなく、世界最大のスーパー、ウォルマート・ストアーズや、日用品のプロクター&ギャンブル(P&G)を、エリートが集うエンロン型経営とは対極にある、まっとうな会社として称賛する。 リーダーシップのある個人よりも、効率的な組織の方に軍配をあげるあたり、日本型経営にも意外な味方が出てきた。一握りのスターが巨額の報酬を手にする革新的な企業やウォール街に対する批判でもある。

ウォール街に対する
米国民の不満が渦巻く

 本書に収めた22編のエッセーのうち、デリバティブトレーダーのナシーム・ニコラス・タレブに取材した一編が最も印象に残った。タレブといえば、金融市場の不確実性に関する著書「ブラック・スワン」が日本でも翻訳出版され話題となった。しかし、本書に収めた一編は02年に発表したもので、金融危機が起きるはるか以前に、金融市場の危うさに警鐘を鳴らす、ウォール街のアウトサイダーであるタレブを取り上げていたわけだ。

 めったに起きないことが起きる、予測不能なのがマーケットの本質なのだから、とんでもないことが起きる可能性に少額の資金を賭け続ける。普段は損失を出しながらも、今回の金融危機のような予想外のことが起きた時に多額の利益が手に入るというのがタレブの運用手法だ。

 裏返せば、日ごろは高い運用利回りをあげて自慢顔のウォール街の運用のプロたちも、たまたまもうけているだけで、滅多に起きない相場変動にある日遭遇し、すべてを失ってしまうリスクがある。相場の先行きを読むことはできない。というのがタレブの哲学だ。

 こうしたタレブの投資哲学を紹介する一編はウォール街への痛烈な批判としても読める。公的資金で助けてもらいながら、多額の利益をあげるや自分の懐に巨額報酬を入れる金融機関のトップたちへの不満を抱くアメリカ人には、心地よい一編かもしれない。

 

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