2024年12月23日(月)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年2月4日

■今回の一冊■
WHAT THE DOG SAW

筆者Malcolm Gladwell, 出版Little,Brown , $27.99

 超ベストセラー作家マルコム・グラッドウェルが10年以上にわたり、米週刊誌ニューヨーカーに発表してきたエッセーをまとめたのが本書だ。

 日本でも「天才! 成功する人々の法則」という邦題で翻訳が出た「OUTLIERS」が60週以上にわたり、ベストセラーリストにランクインする一方、本書「WHAT THE DOG SAW」も、ニューヨーク・タイムズ紙の直近の週間ベストセラーリスト(ウエブ版1月29日付)の単行本ノンフィクション部門で10位と、14週連続でトップ10入りしている。

 エッセー集と説明すると誤解を招くかもしれない。身の回りのことを書いた雑文ではないからだ。例えば、本書のタイトルにもなっている一編「犬が見ていたもの」では、行儀の悪いどんな犬でも瞬時に手なずけてしまう「犬と話す男」と呼ばれる人物を紹介。人類学者や行動学者らの証言を交えながら、犬がなぜその男性の指示に従うようになるのかを科学的に説明する。犬は人間の体の細かな動きに敏感に反応するというのだ。独自ブランドのケチャップを開発し大手メーカーに挑む男性をとりあげる一編では、マーケティングや味覚の専門家にも取材しながら、食品市場の特性を描き出す。

「成功論」を書いた著者が
「失敗論」を語る背景に何があるのか

 しかし、意外にも本書の底流に流れる大きなテーマは「失敗」だ。才能ある人がなぜ失敗するのか、優秀な人材を集めた組織がなぜ駄目になるのか、プロの投資家はなぜ大きな損失を出すのか、といったテーマが目立つのだ。幅広いどんな才能や技能でも、1万時間訓練すれば身につくとする「1万時間の法則」などで話題となっている「OUTLIERS」の成功論とは対照をなす。

 例えば、優勝を目前にしたテニスプレーヤーやゴルファーが、重圧に押しつぶされてミスを連発し実力を発揮できない現象などを取り上げた一編の中で次のように記す。

 We live in an age obsessed with success, with documenting the myriad ways by which talented people overcome challenges and obstacles. There is as much to be learned, though, from documenting the myriad ways in which talented people sometimes fail. (p265)

 「わたしたちは成功にとりつかれた時代に生きている。才能ある人たちがいかにして困難や障害を克服するのかを描いた書籍などがあふれている。しかし、有能な人たちが時に失敗するさまざまな要因について調べることで、同様に多くのことが学べる」


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