トルコ軍が24日、シリア越境攻撃に踏み切った。しかしトルコの進撃は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討というよりも、シリアのクルド人の勢力拡大阻止が目的だ。クルド人にISとの戦いを依存してきた米国は越境攻撃をしたトルコを支持、クルド人の事実上の“切り捨て”を鮮明にした。クルド人がそっぽを向き、ISの壊滅が大幅に遅れる懸念が浮上している。
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トルコの深謀遠慮
トルコ軍は米軍機の支援を受けながら戦車を先頭に越境し、特殊部隊など数百人の部隊を送り込んだ。攻略の目標はISが拠点として支配していた町、シリアのジャラブルスだ。ISは外国人戦闘員の流入や物資の補給のため、トルコとの国境の各地に拠点を持っていたが、次々に奪回され、ジャラブルスが最後に残った補給拠点だった。
シリア内戦の激戦地の最大都市アレッポから北東に約120キロのところに位置する。IS戦闘員の多くが同じく補給の戦略的要衝だったマンビジュから敗走した12日の後、ジャラブルスに入っていた。しかし、トルコ軍の後押しを受けた「シリア自由軍」などの反体制派戦闘員が町に突入した時には、IS戦闘員は逃走した後で、戦闘はほとんど起こらなかった。
トルコ軍は7月のクーデター未遂事件で大規模な粛清と人事の刷新が行われ、まだ混乱が収まっていない。軍がそうした不安定な状況の中で、なぜ越境攻撃に踏み切ったのか。その背景には、トルコのエルドアン政権がISよりもはるかに安全保障上の脅威とみなすシリアのクルド人の急速な勢力拡大がある。
シリアのクルド人組織「民主連合党」(PYD)の武装組織「人民防衛隊」(YPG)は3万人の戦闘員を擁し、シリア国内の反IS勢力としては最大・最強の民兵軍団である。このため米軍が唯一の信頼できる武装勢力として支援、強調関係を強め、IS壊滅の先兵として利用してきた。
YPGはシリア東部から中部の国境地帯約400キロと西部の一部を支配下に収め、上部機関であるPYDが3月、コバニやエフリンなど東部の3地域に連邦制の施行を宣言。国境沿いの支配地をさらに拡大し、将来的には東部の連邦地域と西部の支配地を統合した「クルド国家」創設を目指していた。
しかしこれを安全保障上の最大の脅威とみなしてきたのがトルコだ。エルドアン政権は長年、トルコ国内の反政府クルド人組織「クルド労働者党」(PKK)にテロ組織のレッテルを張って戦ってきたが、シリアのクルド人もPKKの“兄弟“として敵視してきた。
PYDが米国の支援を後ろ盾にして勢力を伸張し、国家までいかないにしても国境のシリア側に「自治区」でも創設すれば、PKKの活動も刺激されて自国の安全保障が脅かされる、というのがトルコの懸念である。
今回トルコが急きょ、越境攻撃に踏み切ったのは、シリアの武装組織YPGがマンビジュを攻略した後も同地にとどまり、マンビジュをクルド支配地統合の足掛かりにしようとした意図が見えたからだ。
マンビジュのIS撃退に当たっては米軍が空爆支援したが、この際のクルド側との合意では、マンビジュを制圧した後は、YPG戦闘員が同市から撤退することになっていた、というのが米側の解釈。しかしYPGが制圧後も居座る姿勢を示したため、トルコが激怒、YPGのこれ以上の拡大を阻止するため米側の了承の下に越境進撃したというのが真相だ。