2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月12日

 この解説記事は、技術的進歩と潜水艦保有国の拡散により、潜水艦が西側の安全保障にとって問題を提起しつつある、と述べています。技術的進歩については、先ず新世代の潜水艦が静かになっていることで、米国の空母の護衛艦や対潜機が中国やフランスの潜水艦の異常接近を察知できなかった例が挙げられています。さらに中国やロシアの新世代の潜水艦が、魚雷に加えて対艦誘導ミサイルを搭載するなど、兵装を充実させている、と述べています。保有国の拡散については、保有国の数が約40か国に増え、その多くが西側の同盟国でないことを指摘しています。

 エコノミスト誌は、このような傾向は西側の安全保障にとって問題であると述べていますが、問題を誇張しているきらいがあります。先ず中露の新世代潜水艦の兵装の充実ですが、冷戦後、潜水艦の、水中から高距離のミサイルを発射する対地・対艦攻撃プラットフォームとしての役割を重視するようになったのは、米国が最初でした。今や米国では潜水艦がイージス艦などの水上艦の任務を補完する形で、対地・対艦攻撃任務の一部を肩代わりしています。

 次にエコノミスト誌は、潜水艦保有国の多くが西側の同盟国ではない、と警告しています。確かに中露の他に例えばイランが小型潜水艦10数隻を保有していますが、他方でインド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなども潜水艦の取得、運用に力を入れています。これら諸国の重要な動機の一つは、中国に対する対抗であり、これは西側にとり好ましいことです。

 潜水艦は、中露と西側の今後の戦略バランスの鍵を握ると言っても過言ではありません。それを左右するのは技術であり、ここでも米国が先頭を切っています。今潜水艦の任務として探知より追尾に重点が置かれているとのことですが、米国は莫大なコストのかかる駆逐艦や原潜に代わって、無人対潜システムの開発に力を入れています。敵の潜水艦を海上から何カ月も追跡できるという無人対潜システムの進水式がさる5月に行なわれたといいます。

 このように潜水艦関連技術でも米国が世界をリードしていますが、これを支えるのが予算であることは言うまでもありません。米国の国防予算は、米国の財政事情、民主、共和両党の争いの結果、常に削減の危機に立たされていますが、米国、そして西側の安全保障の確保のため、米国の国防予算は党派の利害を超えて充実されるべきです。

 日本は潜水艦に関して米国と協力する余地が十分あります。一つは従来型の対潜協力で、理想的な役割分担としては、海自が南西諸島から台湾、バシー海峡に至る「第一列島線」北西部のチョークポイントを固め、米海軍の原潜と哨戒機を南方や西太平洋での追跡任務に専念させることが考えられます。

 第二は東南アジア諸国の潜水艦運用能力構築支援を通じた協力です。例えばベトナムはロシア製のキロ級潜水艦の運用に関しインド海軍から訓練を受けていますが、これに日本が参加すれば、当該地域での中国潜水艦の活動情報を多国間で共有でき有意義です。このほかに、不測の衝突を避ける人工知能の開発、継続的・効率的な運用を可能とする高性能のリチウムイオンバッテリーの開発など、技術面での日米協力が望まれます。
 

  
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