では、具体的に日本人や企業を狙うテロの類型・手段について、『国際テロリズム要覧』から導出してみよう。1976年以降、国際テロによる日本人の被害は、爆弾テロや襲撃による死傷者193人、誘拐の被害者62人に上る。一見すると、爆弾テロや襲撃による死傷者が圧倒的に多いが、これは巻き込まれ型テロの被害者であり、欧米権益へのテロの犠牲になったものだ。今年7月にバングラディシュの首都ダッカで起こった日本人7人が犠牲になったテロも、これに含まれる。
一方で、日本人を狙う標的型テロのほとんどは、誘拐という形で行われている。被害者62人のほとんどは、身代金目的で誘拐されたもので、交渉が失敗して殺害されたものは6人と1割に満たない。しかし、誘拐されても身代金を払えば解放されると安心はできない。2001年のニューヨーク同時多発テロ以前は、誘拐後に殺害された日本人の割合は、わずかに4%だったが、同時多発テロ以降は6割を超え、ISが台頭した13年以降に限れば、全員が殺害されるに至っている。
つまり、貴方が立てるべきテロ対策は、誘拐防止に尽きるといえる。そして、ISが跋扈する地帯での誘拐は絶対に避けること。それは、すなわち死を意味するからだ。
誘拐を防ぐ3つのキーワード
日本人への具体的な脅威が誘拐だとすれば、企業が対策を立てることによって、海外に赴任する社員や家族の安全を確保することができる。冒頭で外務省が作成した爆弾テロ対策資料について批判したが、外務省は『海外における脅迫・誘拐対策Q&A』という資料も作成している。同資料によれば、日本人を狙った誘拐は多発しており、報道されない事例を含めればその数は更に多くなるという。
海外での誘拐は、人里離れた場所で発生する「地方型誘拐」と、都市部で発生する「都市型誘拐」に区分されるが、ほとんどの誘拐は、①誘拐する対象の選定、②実行のための事前調査、③計画に基づいて拉致、④監禁という手順を踏むことが共通する。
中東やアフリカの危険地帯で活動する欧米企業では、民間軍事会社(PMC)と契約したり、軍や情報機関のOBを雇い入れて、テロ組織による内通者の送り込みや盗聴、監視などの事前調査に対して、カウンターインテリジェンス活動を行うこともある。また、PMCに施設を警備させたり、VIPをボディーガードすることは、かなり一般的だ。