残りの任期が迫っているオバマ米大統領にとってシリア問題は鬼門だ。シリア内戦では直近のプーチン・ロシア大統領との会談で停戦合意に失敗。また過激派組織「イスラム国」(IS)などとのテロとの戦いでは、米国がトルコ侵攻を支援したことから、頼みとしてきたクルド人の反発を買い、にっちもさっちもいかない苦境に陥っている。
不可能なテロ組織との切り離し
G20首脳会議が開催された中国・杭州で5日、プーチン大統領と会談したオバマ大統領の顔は厳しかった。「互いの信頼を埋めることができなかった」とシリアの停戦で合意にいたらなかったことを認めた。この会談に向けては、ケリー米国務長官が訪ロするなどラブロフ・ロシア外相と集中協議して地ならしをしてきたが、対立を克服することはできなかった。
米側の提案は激戦の続くアレッポで、シリア政府軍、ロシア軍が反体制派への爆撃を停止し、反体制派も戦闘をやめるというのが骨子。この中で最大の対立点は、反体制派と一緒になって戦闘している過激組織「シリア征服戦線」をどう切り離すのか、という問題だ。
米ロの事務方はアレッポ周辺の詳細な勢力地図を作成したが、反体制派内で最強の組織にのし上がった「シリア征服戦線」の戦闘地域は反体制派のそれと大きく重なっており、事実上、両グループを切り離すことは不可能な状況だ。
同組織は「ヌスラ戦線」と名乗ってきたが、8月に親組織の国際テロ組織アルカイダと決別、「シリア征服戦線」として再出発した。しかし組織の目的などテロ組織の本質は変わっていないと見られている。このためロシアやシリア政府軍は「シリア征服戦線」に対する爆撃を続行、結果として反体制派や民間人も大きな損害を被っているのが実態だ。
情報筋によると、米ロ首脳会談でも、オバマ大統領がシリア政府軍の爆撃をやめさせるようプーチン大統領に求め、特にシリア政府軍が塩素ガスなど化学兵器を使用している疑いがあることに強い懸念を表明した。しかし、プーチン大統領は逆に、米支援の反体制派が「シリア征服戦線」と手を切り、同組織から離れさせるよう、オバマ氏に要求して対立が解消しなかった。
米国が反体制派への影響力を行使して、「シリア征服戦線」から引き離さない限り、反体制派がたとえ攻撃を受けても、ロシアの「テロとの戦い」という主張に反駁するのは難しい。最近、アレッポの反体制派地区のがれきの下からほこりと血だらけで救出された5歳の男児のぼう然自失した写真が世界に衝撃を与えたが、停戦がなくならなければ、こうした悲劇も終わることはない。