2024年12月2日(月)

WEDGE REPORT

2016年9月7日

 米中枢同時テロ「9・11」から11日で15周年。9・11はイスラム過激派にとっては特別に記念すべき日。今年の場合はイスラム最大の祝祭である犠牲祭の前日に当たり、過激派の宗教心が最も高まる時期と重なる。9・11の現場となったニューヨークや中東、欧州など世界各地でテロの懸念が高まっている。

生け贄の祝宴

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 ニューヨーク・マンハッタンにそそり立っていた双子の高層ビル、世界貿易センターに旅客機が突っ込み、ビルを崩壊させて3000人以上が犠牲になった未曾有のテロから15年がたつ。テロの首謀者だった国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンは米特殊部隊に暗殺されてすでにこの世にいない。

 しかし9・11は過激派の世界では、最大の成果を挙げたジハード(聖戦)であり、すでに半ば神話化している“偉業”である。米国はじめ各国の治安・情報機関にとっては、2度と繰り返されてはならない大きな汚点だ。

 今年の9・11は単に15周年という節目を迎えるだけではない。イスラム最大の祝祭である「イード・アドハー」(犠牲祭)の前日という特別の時期と合致する。今年の犠牲祭は12日からの15日までで、イスラム世界の官公庁などは11日から休みに入る。

 犠牲祭は“生け贄の祝宴”とも呼ばれ、メッカ巡礼を締めくくる行事でもある。イスラムの聖典コーランによると、神(アッラー)は預言者イブラヒム(アブラハム)にその息子イサクを生け贄にするよう命じ、イブラヒムは命令に従ってイサクを殺害しようとしたが、神がその信心深さを認めて、息子の代わりに雄羊を生け贄にするのを許したことを記念するものだ。

 祝宴はこの伝えに倣っており、巡礼者だけではなく、世界中のイスラム教徒が羊や山羊を生け贄としてと殺し、神への信仰心を確認するのがしきたりだ。儀式に使われた肉は家族や親類が集まって食し、残りは貧しい人々に配給される。

 この犠牲祭には、ラマダン(断食月)同様、イスラム教徒の信仰心が高まり、過激派が熱情的になるのが通例で、9・11を再現して神への忠誠心をしめそうというケースも十分考えられる。このため、欧米や中東、アジアの情報・治安機関は空港や駅、市場、繁華街など人が集まる場所でテロが起きる恐れが高いとして厳戒態勢を取り始めている。

 特に過激派組織「イスラム国」(IS)絡みのテロが各地で発生していることに懸念が集中している。直近ではシリアで5日、爆弾テロが相次ぎ発生し、53人が死亡。すべてISが犯行声明を出した。イラクでもテロが続発している。

 アジアのフィリピン・ダバオでも2日発生した爆弾テロで14人が死亡した。IS信奉組織アブサヤフが犯行声明を出している。シンガポールやインドネシア、バングラデシュなどでもIS絡みのテロが摘発されており、アジア各地の在留邦人や旅行者はこの時期、特に注意が必要だ。


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