2024年4月20日(土)

家電口論

2016年10月6日

ベルリンフィルとの離別

 この38万円ウォークマンと、ほぼ時を同じくしてもう一つのニュースが発信された。ソニーが2014年に提携を解消したベルリン・フィルと、パナソニックが「高品位なコンサート体験を目指した技術開発の協業で基本合意」というもの。「38万円ウォークマン」と「ベルリン・フィルとの提携解消」、この2つは、今のソニーの姿勢が昔と全く違っており、レジェンド的なエピソードに富む古き良きソニーに戻れないことの象徴のように感じられる。

 「音大は親泣かせ」と言われるが、クラシック音楽はポップスに比べはるかにお金が掛かる。勉強もそうだが、多人数で構成されるオーケストラの運営は厳しいし、「一番大きな楽器」とでもいうべきコンサートホールの維持などはとてつもない金額が必要だ。

 シーズンのコンサートより稼ぎがイイとされるのが、オフシーズン(欧米のクラシックは秋から冬がシーズン)の巡業。来日公演と銘打たれるが、大相撲の巡業みたいなものだ。特に日本のお客は、文化水準も高いうえ、気前がよいので、有名どころが来日する。しかし、それほど稼いでもお金は足りない。コンサートホールなどは、現代の技術でも同じホールを作れないと言われるモノが多く、維持が大変。

 そのためオーケストラの運営には、国からかなりの助成金がでるのだが、それでも足らない。このため今のオーケストラは、オーケストラ毎に自主レーベルを持ち、自分の演奏でトコトン利益を生み出すのは常識となっている。

 それに加え、世界に冠たるベルリン・フィルは、お客様に来てもらうだけでなく、お客様にネット配信で楽しんでもらうという方法を取っている。「デジタル・コンサートホール」という名前で、定期視聴契約で、月当たり14.9ユーロだ。しかし、インターネットは基本が無料。そのため「デジタル・コンサートホール」は、お金を払いたくなるほど魅力的でなければならない。当然、音が悪いと、聴いてもらえない。今回、ベルリン・フィルがパナソニックと契約したのは、4K・HDR映像およびハイレゾ・オーディオへのアップグレードをサポートするためだ。

 技術は現場でしか磨かれない。サーキットを「走る実験室」と呼んだ本田宗一郎がそうであるように、ベルリン・フィルと一緒にライブ配信をすることは、技術を磨くまたとないチャンスだ。ソニーはベルリン・フィルを捨て、パナソニックがベルリン・フィルと提携した今、カラヤンのエピソードは、ソニーにとり、もはや雲のかなた、リアリティのないモノとなった。


新着記事

»もっと見る