古き良きソニー
ある記事でプレステ生みの親・丸山茂雄氏が、「子供が玩具に寄せるワクワクした好奇心。ソニーブランドとはそんな感じだった」という旨の話を読んだが、実に素晴らしい、胸がすくような指摘。トランジスタラジオで、海外で成功し一躍名を馳せたソニーの原動力は「やらなければならない」というある種の義務に縛られた力ではなく、「こうしたほうが面白い」という積極的な力だ。別の言い方をすると「面白くなければやらない」ということだ。ソニーがメインにしたのは、エンターティメント家電。つまり、オーディオ・ビジュアル、ロボットにゲーム。そして、それを支えるはプロ(業務)用も作り出すことができる技術力。ソニーの製品は常に話題の中心にあり、注目を浴びる会社だった。
特に、一社で、オリジナル規格を作り出すことができる技術力はスゴく、ビデオ、CD、を始め、ソニー抜きの規格は皆無と言っていいほどの時があった。が、その反面、持っている技術で身動きが取れなくなることも多かった。高画質のβビデオ(以下β)が、三倍モードという低画質だが、ランニングコストの安いユーザー志向のVHS(世界を席巻したビデオ規格)の技術に破れたことなど典型例。このあたりは、使い勝手より技術を、根本品質(ビデオの場合は音質、オーディオの場合は音質)を、大切にしたソニーらしい話だ。
また、テープレコーダーから、録音ボタンとスピーカーを除去し、ヘッドフォンでどこでも聴けるようにしたウォークマン。それまで部屋の中だけで楽しんでいた音楽を、誰でもどこでも聴けるようにした世界を唖然とさせた大発明。造語である「ウォークマン」が正式にウェブスターの辞書にも掲載されたほど。それほどスゴい。ソニーブランドは一等星どころか、太陽のように輝いた。
そして、CDのフォーマット規格時。創業者の一人、盛田昭夫氏は仲のいいベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席常任指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンにある質問をする。それは「何分録音できればいい?」ということ。カラヤンは、しばらく考えて「ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」が一枚に入るように」と言ったという。
「合唱」は、かなり長い曲で、指揮者により10分以上演奏時間が違う。カラヤンの演奏は早め。その演奏を踏まえ、74分という録音時間が決められたという。テンポを遅く取る指揮者は、この中には収まらないので、自分以外は切り落としたと言ってもいい。さすがに「帝王」と呼ばれたカラヤンならではとも言える。
とにかく、日本の一企業とは思えない、我に富んだ痛烈なエピソードに満ちた会社だ。別格と言っても差し支えないだろう。