金融庁の森信親長官が12日、日本記者クラブで「金融行政の現状と課題」と題して講演、地方銀行などを含め全国に105行ある地域金融機関に対する行政のやり方を「不良債権処理など資産査定中心から、融資先企業の事業性評価に基づいて融資の促進をするものに変えた」と述べ、1990年代に起きた日本経済のバブル崩壊以来続けてきた同庁の監督・検査方針を大転換したことを明らかにした。
減少する利ザヤ
地域金融機関を取り巻く情勢は厳しさを増しており、2025年に向けて東京を含めて生産年齢人口の減少にいかに対応するかが大きな課題で、ここ数年貸出残高は増えているが利ザヤの減少傾向が続いている。貸し出しは、東京を含む、ほかの県では5%程度伸びているが、地元では新規融資案件が少ないため2~3%しか伸びていない。また地元での中小企業向け貸し出しでは2%前後の貸し出し金利が適用できているが、東京では1%程度で、大手銀行を含めた金利引き下げ競争のあおりを受けて、地域の金融機関は苦戦を強いられている。
いわゆる検査マニュアルを振りかざして金融機関の不良債権処理に邁進してきた金融庁が大きく方針を転換したのは、不良債権処理が一段落したと判断したためだ。森長官は「銀行全体の健全性について金融庁はチェックするが、個別企業への融資案件については、一本ずつの貸し出しの引き当てが十分かどうかは金融機関に任せることにした。同時に銀行に対しては、融資先企業の財務と経営の両方を見るよう求め、これまでは財務だけ見て貸し出しをするかどうかを判断してきたが、これからは事業の先行きを見て判断するよう求める」と述べ、融資判断について銀行の自主性を尊重する。
無担保融資も認める
新しい方針では、地域の銀行が取引先企業の事業を適切に評価できているか検証し、取引先企業のニーズや課題に応じた解決策の提供により、地域経済の活性化にも貢献したいという。銀行員の具体的な取り組みとして同庁は、事業性評価の結果を受けて対話を行っている取引先件数、中小企業向け融資のうち無担保融資先数、中小企業に対する経営人材紹介数など、客観的に評価できる55項目なる金融仲介機能のベンチマークを設定、公表した。これを受けて、地方銀行などは、このベンチマークに沿って、地域の有望な企業に対して積極的な融資展開をすることが求められる。