――ということは先程出てきたTMAなどのシステムは、日本にも導入されているんですか?
伊藤:うーん、管制官を支援する自動化システム、という点に関して言えば、アメリカから20年ほど遅れをとっているのが日本の現状ではないかと思います。渦中にいる研究者として、焦りを感じています。
TMAはアメリカでは導入されていて、ヨーロッパでも部分的に導入されています。ヨーロッパは小さい国が多く、アメリカは国土が広いために区域の特性が違うので、導入する自動化システムの性質も違います。日本の場合、太平洋上空の空域を有するアメリカ型の部分もあるし、国土が狭いためヨーロッパ型の部分もありますから、そこを考えながら新しい自動化システムをうまく設計しないといけない。これからもっと航空機の量が増えてくると、管制官の神業のような部分に頼りきっていてはサービスが追いつかなくなる可能性もありますから、自動化システムの導入は切実な問題です。
――それは東京オリンピックを目処に多くなるということですか?
伊藤:そうですね。ただし、自動化システムを導入するには、歴史的に見ても、その研究開発と実証に20年は掛かると考えています。
その前に、2020年の東京オリンピックへ向けて、空域再編成が予定されています。そして羽田空港発着の国際便を増やすために、埼玉県の大宮周辺を通って北側から着陸するルートが導入されます。 そのように空域や滑走路の容量を増やすところから始めて、徐々に自動化システムの導入につなげるはずです。2025年には国際線や上空通過機の数が現状の1.5倍に増えると試算されており、日本の空域のキャパシティを超えるのではないかという試算があります。根本的に変えるためには新しい運用やそのための支援ツールの導入が不可欠です。
――日本の管制官の神業とも言える判断もあるとのことですが、現在航空管制の研究では自動化に頼るのか、それとも人間に頼るのか、どちらかが主流なのですか?
伊藤:航空機のコックピットでは、自動化に頼るのか、それともパイロットを頼るのか、という議論が続いていました。アメリカのボーイング社的な思想は、想定外の非常時に自動化システムよりパイロットの操縦に任せようという設計で、逆にヨーロッパのエアバス社的な思想は、パイロットよりも自動操縦に任せよという設計です。
これは哲学的な論争で、科学者の間でも収束しません。
例えば、みなさんはパイロットが搭乗していない完全自動操縦の飛行機と、自動操縦だけれども非常時にはパイロットが操縦する飛行機のどちらで空の旅をしてみたいでしょうか?
私としては、過去の航空機事故を調べても、最終的には人間が介入出来る人間中心設計が良いと考えています。
実際には、ボーイング社的な設計思想がアメリカ全体の考え方ではなく、人によりけりなんです。人工知能の研究者は人間を頼るより人工知能の方が優れていると主張する人もいます。時と場合によりますね。