――悩ましい問題ですね。伊藤さんのように航空管制を研究しているからこそ、飛行機に乗っていて気がつくことはありますか?
伊藤:そうですね。例えば、海外から羽田空港へ着陸する時に、窓の外をのぞくと、房総半島の内側か、外側を飛んでいます。外側を飛んで大回りすれば羽田空港は混んでいるんだな、とか。また、高度4万フィート付近を飛んでいると、気流が安定していて、燃費の良い高度に上がれたのかな、なんて想像します。
先日は、日本からドバイ経由の国際線に乗りました。シリアは内戦状態ですから、代わりにどの国の上空を通過するのかと思ったら、トルコ上空を通過しました。そういうところから、国の情勢や、航空会社がどこの国と親しくしているかは飛行機の経路でわかりますね。
――最後に、「科学の本なんて敷居が高い」と感じる読者もいると思います。どんなところに注目して読んで欲しいですか?
伊藤:元々、航空管制科学を社会へ発信したいという気持ちは強くありませんでした。私たちは、航空管制システムの設計に貢献するので、情報発信は二の次だと。しかし、出身地の京都で行われた「TEDxKyoto」に登壇し、一般の人へ向け最先端の研究についてお話しする機会をいただきました。すると空の旅や私が惹きつけられてやまないこの分野について一般の人達が強く興味を抱いてくれたんです。それならば、もっと空の旅の裏側の研究や、この10年間で出会った素晴らしい科学者、そこで何を考えてきたかをお伝えしようと思いこの本を書きました。
確かに、理系じゃないからとっつきにくいとか、科学にアレルギーがある人もいるかも知れません。しかし、航空管制を始め、人工知能などは今後人間社会とどう協働するのか、社会で取り組むべき課題になってきています。ですから、科学の枠を超えて、日常生活にそういうものが入り込んで来た時にどうしていくのか。自らの問題として考えて欲しいですね。
また、まだ20代の私が世界に飛び出し、どう奮闘してきたかというサバイバル術が分かると思うので、エールになればと思います。
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