2024年12月14日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2016年11月11日

 旅行や出張で多くの人たちが利用する飛行機。あれだけ大きな機体が空を飛ぶのも不思議だが、これだけ多くの飛行機が空を飛んでいるにもかかわらず、衝突などが起きないのもまた不思議だ。

 そんな飛行機を裏側で支える航空管制の世界を、トップを走る欧米で10年間研究した国立研究開発法人 海上・港湾・航空研究所 電子航法研究所の伊藤恵理主幹研究員が、欧米での奮闘記や航空管制について一般向けに書いたのが『空の旅を科学する』(河出書房新社)。     

 今回、伊藤氏に「航空管制の研究とは?」「印象に残る研究者」「欧米での奮闘記」などについて話を聞いた。

――スロバキアで参加した国際会議から、航空業界ではトップを走る欧米で10年間に及ぶ研究の旅から帰国されました。まず航空管制とはどんな研究なのでしょうか?

『空の旅を科学する』
(伊藤恵理、河出書房新社)

伊藤:一般的にはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、航空機を利用して旅に出ることはありますよね。その時、例えば日本一混雑している羽田空港(東京国際空港)のような航空機で溢れかえっている空港上空で、どうして航空機同士が衝突するなどの事故を起こさないかわかりますか。これは「航空管制官」と呼ばれる人達が、航空交通を写すレーダーを見ながら、地上の管制塔や運用室からパイロットへ的確な指示を出し、空の交通整理をしているからです。

 それだけでなく空の交通の裏側には様々なものが関わり合いながら効率的に運航されているんです。例えば、地上インフラや航空機の搭載品。これにはハードウエアやソフトウェアが含まれます。さらに、航空管制官、航空会社のパイロット、運航管理者などの人間社会も関わっています。そうした航空機の交通整理に関する全てを扱うのが航空管制の研究になります。

 また、こうした人間社会に作用するソフトウェアやハードウエアなどの技術と、人間社会を含むシステムを「ソシオテクニカルシステム」と呼び、航空管制システム以外にも車や鉄道などの交通や物流を管理するシステムもそうです。特に、近い将来増々需要増加が予想される航空交通では、従来のように管制官の経験則だけに頼りすぎていては、将来的な交通増に対応できないという危機感があり、航空管制科学が生まれました。

――振り返ると、この10年間はどんな言葉で表すことが出来ますか?

伊藤:「夢中で駆け抜けた、キラキラした10年間」でした。京都の田舎で育ち、隣町に電車で出かけたこともなかった私が、大学で航空工学を学び、研究者の道を選んで上京しました。そして、大学院生の時にひょんなことからスロバキアで開催された国際会議へ。その後、パリのユーロコントロール実験センター、アムステルダムのオランダ航空宇宙研究所、遂にはNASAへと繋がったんですから。


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