「トランプに協力する用意がある」とサンダース
そんな中、バーニー・サンダース氏はいち早く「トランプ大統領に協力する用意がある」という姿勢を明らかにした。
サンダース氏はヴァーモント州バーリントンの市長に立候補した時から今日まで「一度もネガティブキャンペーンをしたことがない」ので有名だ。米国の選挙では相手を貶めて得票を狙うのが常套手段だが、民主党予備選の時もヒラリー氏のメール問題に触れることはなかった。支持者からは「メール問題を追及していれば勝てた」との声もあったが、「選挙は政策で」というのがサンダース氏の持論だ。
そのサンダース氏ですら、「ドナルド・トランプを大統領にしてはならない。彼は近代の歴史の中で最も危険な大統領候補だ」と訴えるほどに、かなりトランプ氏には批判的だった。それがなぜ協力を申し出たのか。
一つには米国の分断をこれ以上進めてはならない、という気持ちからだろう。そしてもう一つは自身が声明で明らかにしたが「トランプ氏は中流からすべり落ちようとしている人々の怒りを共鳴させた。長時間働きわずかな給与しか得られない人々が増え、かつての仕事は今や中国や他の労働コストの安い国に流れている。億万長者は税金を払わず、低所得層は子供を大学にもやれない国に、人々は疲れ果てている」という点において、自分とトランプ氏の主張には共通点がある、と考えたからだ。
トランプ氏がワーキングクラス家庭の暮らしの向上のための政策を進めるならば、進んで協力する。ただし「不法移民の排斥、人種差別などを助長する政策を打ち出すならば、自分はトランプ氏にとって最悪の悪夢となる」と釘を刺すことも忘れていない。
サンダース氏は「ワーキングクラスの人々がこぞってトランプに投票したのは民主党にとって恥ずべきこと」と語る。米国では民主党はワーキングクラスの代弁者、という位置付けだったはずなのに、今回の選挙では「エリート」ヒラリーがエスタブリッシュメントの代表、「大富豪」トランプが貧しく怒れる人々の代表、という奇妙なねじれがあった。自らがワーキングクラス出身で国内の格差是正を強く訴えていたサンダース氏にとっては非常に歯がゆい展開だったかもしれない。
ここに来て噴出する「サンダースなら勝てたのでは」という議論に対し、サンダース氏は「今そんなことを言うのは無意味だ」とコメントを控えた。しかし奇妙なほどに湧き出る「2020年の大統領選挙への待望論」に対し、「まず2018年に上院選を控えた身だから」としつつも、否定はしなかった。4年間のトランプ政権で国が荒廃すれば、79歳という高齢になっているにもかかわらず、再び怒れるサンダース旋風が吹き荒れるかもしれない。
今政治家に求められるのは、非生産的な抗議行動を止め、「トランプ政権の元でも国は安泰だ」という安心感を国民に与えることだ。その意味でサンダース氏が政権への協力を申し出たことの意味は大きい。もとも極右と極左でありながら、主張には共通する点も多かったトランプ氏とサンダース氏。協力関係になれば意外に良いコンビになるのかも。
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